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女の性癖、男の嗜好…(短編集)
第8章 女久美 54歳

新しい年度が始まったせいか
電車はいつも以上に混みあっていた。
腕を組む男性の肘がバストに当たらないように
女久美はショルダーバッグを抱きかかえて
無駄に大きい乳房をガードしていた。

おかげでバストは守られたが
どうも先ほどからお尻の辺りがモゾモゾしていた。

『えっ?痴漢?』

一瞬だけ、そのように考えたが
女子高生やうら若きOLなら狙われるだろうが
50過ぎのおばさんが痴漢の被害に合うなんて考えられなかった。

きっと電車の揺れでお尻に手が当たっただけなのだろうと取り越し苦労だと思うようにした。

しかし、先行列車の遅れからか
ノロノロ運転をし始めて揺れなどなくなってからも
お尻の違和感が過ぎ去らない。

きっと後ろ姿からでは私がおばさんだと気づいていないのだと思い、覚悟を決めて首を出来るだけ捻って後方を見やった。

右後方には背の高いハンサムな男性。
彼と目が合うと、男は視線をそらすことなく
女久美に軽く会釈をした。

『彼じゃないわ…痴漢がこれほどまでに堂々としているわけないもの』

そして今度は左後方を確認した。
バーコードに禿げ上がった冴えないオヤジが頬を上気させていた。

『コイツだ!』

そう確信した女久美はハゲオヤジを睨み付けた。

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