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人妻の愁い(憂い)
第1章 真夏の夜の夢…
 ①

「やったあぁぁー」

 そのブザーの瞬間に、スポーツバーの店内は歓喜と大歓声に包まれる。

「やったあぁぁ…」

「うわぁ…」

「すげぇ…」

「おめでとう…」

 店内にいる客は、この歴史的な勝利に歓喜し、感激し、感動をし、そして目に入った誰彼とも関係なく、抱き合い、手を合わせ、喜びを爆発させていた。

 ジャパンチームがオリンピック出場権を得た勝利の瞬間であった…

 皆でお酒を飲みながら、ワイワイ、ガヤガヤとモニターに写し出されるプレイに一喜一憂し、いつの間にかに店内にいる見知らぬ者同士が一体感を感じていく…
 スポーツバーは、そんな楽しさがある。

 そして勝利したから余計に、歓喜と興奮が否が応でも昂ぶってしまっていたのだ…


「ふうぅ…」
 ようやく興奮も一段落し、わたしはカウンターの隅の席に一人座り直す…

「ドライマティーニを…」
 

「あ…、隣、いいですか?」
 すると隣の席の後ろに男が立ち、そう話しかけてきた。

「え…」
 わたしはその声に振り向き、その男を一瞥し、一瞬で観察する。

 年齢は、40代前半か…
 175センチくらい、腹はセーフ…
 短髪で、清潔そうだし…
 ま、いいか…

「ま、いいか…」
 つい、心の声が出てしまった。

「えっ」
 男は、少し焦った声を漏らす。

「あ、うん、いいわ…よ」

「は、はい、失礼します」
 丁寧であった。

 いわゆるナンパだから、もっと強引かと思って一瞬の内に心の中で警戒をしたのだが、その言葉に少しだけ緩んだ。
 
「あ、ギムレットを…」
 男はそうオーダーした。

 ふうん、まあまあのセンスかも…

「じゃ…」
 そしてその男はギムレットの入ったカクテルグラスを軽く上げ、一口飲んだ。

 今のところは及第点といえる…

「いやぁ、ジャパンチームすごかったですねぇ」
 そして話題的にもさっきのゲームの話しをしてきたので、わたし的には合格であった…
 なぜなら、まだ、わたしも内心は、さっきのゲームの興奮が冷めやらない状態ではあったから、そして、もちろんそのゲームの話しをしたい思いがあるから。

 だから、スムーズに会話も弾む…
 そして男側としては、ナンパとしての手応えを確信している感じでもあった。

「おかわりは…
 奢らせてください…」

 男が問うてくる…





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