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人妻の愁い(憂い)
第2章 わたしはママじゃない!
 

「ああ、ママ、いい、気持ちいいよぉ…
 ママぁ…
 ママぁ…
 あっ、で、出るぅっ…」

 そう小さく叫び、夫はわたしの上で果てた…

「…………」

「はぁ、ふうぅ…」
 そして夫はさっさと後始末をし、背中を向けて寝てしまう。

 キスをして…

 軽く胸を揉み…

 少し指先で弄り…

 濡れてきたのを確認し…

 挿入し…

 僅かに2分弱…

 一方的に腰を振り…

 果てた…

 僅かにトータル約10分間の…

 毎週水曜日の夜の夫婦の時間…

 なぜか決まったように、毎週水曜日の夜…


「はぁぁ…」 
 そんなため息を漏らし、ふと横を見ると…
 既に夫は寝息を立てていた。

『ママぁ…』

 わたしはあなたのママ、母親ではない…

 わたしは悠里…

 ちゃんと名前がある…

 子供が生まれたと同時に…

 わたしは『ママ』と呼ばれ…

 いつしか、わたしの名前は消えた…

『ウチのカミさんがさぁ…』

 他人には『カミさん』と云い…

 カミさんてなに?…

 カミ…

 かみ…

 神…

 お上さん…

 カミさん…

 違う…

 わたしには悠里という名前があるんだ…



 散々遊んできて、気付いたら30歳が過ぎ…

『ま、いいか…』

 で、慌てて高収入に妥協して結婚した…

 それのツケなのだろうか…

 

「へぇ、悠里さんて言うんだぁ…
 素敵な名前に漢字だね…」

 久しぶりの夜遊び…

 女友達が先に帰り…

 一人でバーに居残ると…
 
 隣の席の男が声を掛けてきた。

 そして、さっきまでの女友達との会話を聞いていたのだろう…

 男がそう…

 わたしの名前を呼んできたのだ。

 悠里…

 素敵な漢字…

 久しぶりに名前を呼ばれ…

 心が震えてしまう…


 そう…

 わたしは悠里…

 ママではない…

「もう少し静かな処に行きませんか…」

 お互いの指先には光るリングが…

「さぁ、悠里さん…」

 そう…

 わたしは悠里…

 ママでは無いのだ…

 わたしは男に肩を抱かれ…

 席を立つ…


「ねぇ…
 そう、貴方のお名前は?…」



 まさか…

 パパじゃないでしょう…




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