この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
千一夜
第58章 第八夜 island 扉
私に……、いや私だけに用意された幸せの扉を開ける。そして私はその扉の中に入った。扉の向こうの世界は、今まで私が暮らしてきた世界とは全く違っていた。
田舎の両親に河田からプロポーズされたことを電話で知らせた。父も母も驚いた様子だった(娘を持つ父と母なんて、みな同じ反応を示すだろう)。ただ、父だけは私にこう命令した「次の休みにそいつを家に連れて来い」と。
ところがその翌日、父から電話が掛かって来た。
「お前に結婚を申し込んだ人は河田良和と言うんだよな?」
「そうだけど」
「その河田という人は、○○インターネットの人なんだよな?」
「そうよ」
「専務さんなのか?」
「ええ」
「東大出てるんだよな?」
「法学部ね」
「国家公務員の総合職試験に合格したって本当か?」
「本当よ」
おそらく私の父はWikipediaに載っている河田の情報を見ながら私と話しているのだと思う。
「外資銀行に入行後、アメリカに留学。そしてMBAを取得したんだよな?」
「ええ」
「……」
父の質問はそこで終わった……かに思えた。
「電話切るわよ」
「そんなエリートが何でお前にプロポーズしたんだ?」
「失礼ね」
「本当なんだよな?」
「何が?」
「お前が河田さんから結婚を申し込まれたと言うことだ」
河田さん、父は初めて河田に“さん”をつけた。
「本当ですけど」
「……」
沈黙。
「じゃあ日曜日」
私はそう言って電話を切った。
日曜日、私は河田と私の実家に向かった。
「はじめまして、河田良和と申します。よろしくお願いします」
家のチャイムを鳴らし、家の中に入って河田がそう挨拶したとき、私の両親は玄関ホールの床に正座していた。
緊張していたのは河田ではなく、私の両親だった。
私は河田が会社でどんな風に仕事をしているのかわからない、ただ、河田という人間はどんな場面でも、誰に会っても自分を貫いていた。
エリートなんてカメレオンみたいに色を使い分ける術を身に着けているのかと思っていたが、河田にはそれがなかった。よく言えば思いのままに生きている男。悪く言えば……、器用に世間を渡り歩けない男。
だから母が作った料理を遠慮なしでバクバク食べ、父から酒を進められると「頂きます」と言って父が注いだ酒を飲み続けた。
月曜日、父から電話があった。
「気に入った」
その一言だけだった。
田舎の両親に河田からプロポーズされたことを電話で知らせた。父も母も驚いた様子だった(娘を持つ父と母なんて、みな同じ反応を示すだろう)。ただ、父だけは私にこう命令した「次の休みにそいつを家に連れて来い」と。
ところがその翌日、父から電話が掛かって来た。
「お前に結婚を申し込んだ人は河田良和と言うんだよな?」
「そうだけど」
「その河田という人は、○○インターネットの人なんだよな?」
「そうよ」
「専務さんなのか?」
「ええ」
「東大出てるんだよな?」
「法学部ね」
「国家公務員の総合職試験に合格したって本当か?」
「本当よ」
おそらく私の父はWikipediaに載っている河田の情報を見ながら私と話しているのだと思う。
「外資銀行に入行後、アメリカに留学。そしてMBAを取得したんだよな?」
「ええ」
「……」
父の質問はそこで終わった……かに思えた。
「電話切るわよ」
「そんなエリートが何でお前にプロポーズしたんだ?」
「失礼ね」
「本当なんだよな?」
「何が?」
「お前が河田さんから結婚を申し込まれたと言うことだ」
河田さん、父は初めて河田に“さん”をつけた。
「本当ですけど」
「……」
沈黙。
「じゃあ日曜日」
私はそう言って電話を切った。
日曜日、私は河田と私の実家に向かった。
「はじめまして、河田良和と申します。よろしくお願いします」
家のチャイムを鳴らし、家の中に入って河田がそう挨拶したとき、私の両親は玄関ホールの床に正座していた。
緊張していたのは河田ではなく、私の両親だった。
私は河田が会社でどんな風に仕事をしているのかわからない、ただ、河田という人間はどんな場面でも、誰に会っても自分を貫いていた。
エリートなんてカメレオンみたいに色を使い分ける術を身に着けているのかと思っていたが、河田にはそれがなかった。よく言えば思いのままに生きている男。悪く言えば……、器用に世間を渡り歩けない男。
だから母が作った料理を遠慮なしでバクバク食べ、父から酒を進められると「頂きます」と言って父が注いだ酒を飲み続けた。
月曜日、父から電話があった。
「気に入った」
その一言だけだった。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


