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ソルティビッチ
第1章 ソルティビッチ…
 47

 なんとなくだが、あの彼女の目をどこかで見た様な記憶があると…
 心がザワザワと騒めき、囁いてきていた。

 どこだ?

 誰だ?

 どこで見た目だ?

 彼女の目は?

 彼女は誰だ?…

「………」

 だが、懸命にここ最近の記憶を蘇えらせ、思い返しても全く想い浮かんでこない。

 誰だ、誰だろうか?…

 昔、わたしをナンパしてきたビアンの女性だろうか?
 だが、記憶ではそれらの彼女達とは全く違う。

 わたしをナンパしてくるビアンの女性達は基本的には…

 タチ役…

 つまり男タイプが殆どであり、いや、過去を思い返しても皆がタチであり、見た目もほぼ男っぽいのだ。

 だが、あの女の子は…

 まるで女性そのもの、どちらかといえば美人系な、男達が嬉々として喜ぶタイプなのである。

 だから違う…

 だけど…

 だけど…

 あの目…

 あの目は間違いなく…

 どこかで見かけた目なのだ。

 どこだ?

 誰だ?…


 肩までのダークブラウン系のサラサラのショートボブ…

 くっきり二重で睫毛は長い…

 鼻筋もスッとしていて…

 薄い唇に艶々グロスの塗られた、やや赤味のあるピンクのルージュ…

 その艶やかな唇がわたしを誘ってきている。

 誰だ?…

 誰だっけ?…

 彩ちゃんはまだ忙しそう…

 すると彼氏がトイレから戻り、席に座るなり彼女の耳元に顔を寄せて何かを囁く。

 だが、彼女は視線だけはわたしから離さずに、頷き…
 そして、首を振る。

 しかし、彼氏はまだ耳元から離さずに話しを続け、彼女の肩を抱いた。

 その時…

 彼女はまた首を振り、抱かれた肩の手を振り払い…
 
 視線をわたしから彼氏に向けて…

「ぁ…」

 なんと…

 その彼女は、飲んでいたマティーニが入っているだろうカクテルグラスを手に持ち…

 ビシャッ…

 その中身を彼氏に浴びせたのだ。

「うっ」
 カクテルを浴びせられた彼氏は、思わず声を漏らす。

 その瞬間、一斉に周りのお客も、彩ちゃんも、その二人に視線を向ける。

 そして彼女は勢いよく立ち上がって席を立ち…
 踵を返し、店から出て行った。

「あっ、あ…」

 一斉にカウンターのお客達は、一瞬、騒めいたのだが…
 実は、この『バーBitch』では良くある光景なのである。




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