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張型と旅をする女
第2章 出会い
「わたくしは、愛している方と一時も離れたくないの。心だけでなく、身体も」
「相手が先に死んだら嫌でも離されますよ。埋葬しなければならないのだから」
「私」は誰かをそこまで愛したことなどない。そう思わせる誰かに出会ったことはない。
目の前の女が少し羨ましく、且つ鬱陶しく感じた。
女がゆっくりとこちらを向いた。
そして白く細い手が黒壇の箱をさすった。
「焼かれても、わたくしにとって一番大事な、一番欲しい物だけが残り離れずに手元にあればそれでいいのです」
今度は優しく撫でるように細指が艶めく。
そして正面が「私」にも見えるように箱をズズズと動かした。
天板には蕎麦屋の出前で使うオカモチのように持ち手がついている。オカモチと違うのは、正面が観音開きになっていることだ。掛金はしっかり閉じられている。
「なっ…何か仏さんとか、信仰している神様だとか、中で祀っているのてすか。そうか、お身内の誰か大切な方が亡くなってしまった。位牌でしょう?」
薄ら寒くなってズケズケと思いつくままに口に出した。
そうすると女はニイッと唇を下弦の三日月のように曲げ
「わたくしは無宗教で、親兄妹はまだ生きてます。そうすると…誰なんでしょうねぇ」
観音扉を這うように白い指が艶めく。
コツン、と箱の中から音がした…気がした。
「!」
「あらあら。このひとも、おなたにご挨拶したいようですわ」
ゆるゆると白い指が掛金を外した。