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ビッケ
第1章 ビッケ…
 ①

「あ、あのぉ…」

「え?」
 わたしはその声に振り返る。

「あの…昔○○女子高校のバスケの監督だった美紀谷先生っすよね?」

「え、あ、うん…」

 そう訊いてきた男は20代後半だろうか?
 そんな見た目の、どちらかというと爽やか系な感じであった。

 うん?、この目…
 この感じ…
 どこかで会った?
 会ったことがある?

「あ、ぼ、僕は△△高校でバスケしてたんす」
 
 だから見た事がある感じがしたのか?…

 そもそもわたしを『美紀谷』という苗字、そして先生って呼ぶ事は…
 あの五年前以前に高校バスケに関わっていた誰かには違いないのだ。

 今夜のわたしは…

 現在、アシスタントコーチとして指導しているU15のバスケクラブチームの保護者主催の打ち上げを兼ねた飲み会に参加をし、少し飲み足らないので自分の中での二番目の行き着けの『ワインバー』で一人飲んでいた。

 だけど本当は飲み足らないのではなく…

 午後から夕方に掛けて最近親しくしてもらっている、趣味で書いている携帯エロ小説サイトで知り合った某作家さんと色々とエロい内容のメールを交わしていたせいと…

 朝から真冬並みに気温が下がり、大雨が降っていたせいでの手術痕と、心の疼きの昂ぶりもあり…

 ソワソワとしてしまい、いや、本音はこの昂ぶる疼きを鎮めたくて巷を彷徨い、男が欲しくて…
 この二軒目のワインバーで飲んでいたのである。

 だが、現実はなかなか難しく…

 理想的なワンナイトの相手などはそう簡単には見つからず…
 たいがいはこうして独りで行き着けのバーで飲み、自宅に帰り、自ら慰めている夜が多い、いや、現実的にはそんなソロの夜ばかりであった。

 最後に抱かれたのはいつだっただろうか?…

 半年以上、あ、昨年末のクリスマスのパーティーの夜が最後かも?…

 しかもその夜は泥酔し、全く記憶が無く、目覚めたら一人ホテルのベッドで全裸で寝ていて、ゴミ箱に使用済みのコンドームがあったという夜…

 あ、あと、比較的最近…
 余りにもサイズが大き過ぎて出来なかった夜もあったっけ。

 つまり、ここ最近は、ほぼ御無沙汰なのである…

 そんないつもの諦めモードの今夜、その若い…

 そう、わたしには若い、年下の男が…

 いや、男の子っていう感じの彼が…
 わたしに声を掛けてきたのだ。



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