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ビッケ
第1章 ビッケ…
 ②

「あら、でもわたしはもう辞めて五年以上経ってるわよ」

「あ、はい、僕は今28歳なんで、約10年前っすかね…」

「そうなんだ…」

 28歳か…
 わたしより9歳下だ…

「あ、あの…」

「うん、なぁに…」
 
「隣に座ってもいいすか?」

「あ、うん…でもお友達はいいのかしら?」

「は、はい、大丈夫っす」
 そしてわたしは隣の席を目で促してあげる。

 期待はしていない…

 ただ、寂しかっただけだ…

「あ、お代わりちょうだい」
 と、店員にスパーリングワインのお代わりを頼む。

「キミは、何を?」

「あ、じゃ、同じモノで…」

「じゃあ、二つね」
 そしてスパーリングワインが来て、とりあえずグラスを合わせる。

「あ、あの…実は…」

「え?」

「実は、よく、映画館のレイトショーで、美紀谷先生を見掛けていたんです」

「え、あら、そうなの…」

「あ、はい、僕もよくレイトショーに行くんすけど、三回に一回位の確率で美紀谷先生を見掛けてました」

「あ、うーん、もう先生呼びは辞めてよ」

「あ、す、すいません…」
 この彼の緊張気味の顔と言葉遣いが、なんとなくわたしの心をくすぐっってくる。

 よく映画のレイトショーでわたしを見掛けていた…
 だからか…
 だから、初めて彼を見た時に、彼の目を見た様な気がしたのか?

 きっと無意識に脳裏に記憶されていたのかもしれない…
 わたしはよく、そんな事があった。

「もう先生辞めて五年以上だからさぁ」

「は、はい、そうっすよね」

「うん、そう、悠里でいいわよ」

「え、あ、悠里さんていうんですか」

「うん、そう、美紀谷悠里…
 みきたにゆり…

 あ、そうだ、キミは?…」

「あ、はい、坂下和哉っす」

「え、かずや…って云うんだ」
 わたしはその和哉っていう名前に少しドキッとしてしまう。

 なぜなら、わたしが趣味で書いている携帯小説の、しかも、もう二年近く書き続けている代表作といえる作品の登場人物の名前と同じだったからだ…

 しかも、その和哉も…
 絡む主人公より一回り以上も年下の設定であったから。

「ふーん、和哉くんかぁ…」




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