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【全話版】ストリート・キス
第10章 彼女のウィーン行き〜結婚しよう
ずうっとあとになって、すべてが終わってしまってから思い返してみたとき、幸せで満ち足りた気持ちで彼女とセックスしたのは、彼女がウィーンへ旅立つ前の、湖水デートの日が最後だった。彼女への僕の想いが最も強かった時期でもあり、彼女も優しくて可愛かった。
「結婚しよう」
僕がそれを口走ったのもウィーンへ行く前のことだ。
「どこか遠くの街で二人で暮らしたい。結婚しよう」
僕は彼女に言った。既婚で子どももいる人に向かって軽々しく言ってよい台詞ではない。でもその時の僕は本気だった。彼女が大好きだったから、心から愛していたから、彼女が愛おしくてたまらなかったから。
無茶な求婚をされた彼女は困った顔をした。やがて目を伏せ「そう…ね」とだけ。それだけだった。拒否もされなかったが肯定もされなかった。当時の自分は彼女のそんな煮え切らない態度がとても不満だった。
でも…だからといって彼女は何と言えただろう。もしも僕が彼女の立場だったなら、彼女と同じように返答に窮したはずだ。無論、YESなんて言えない。言えるはずがない。ではNoと言えるか?相手の心を傷つけずにNoと言えるだろうか?おそらく無理だ。
「結婚しよう」
僕がそれを口走ったのもウィーンへ行く前のことだ。
「どこか遠くの街で二人で暮らしたい。結婚しよう」
僕は彼女に言った。既婚で子どももいる人に向かって軽々しく言ってよい台詞ではない。でもその時の僕は本気だった。彼女が大好きだったから、心から愛していたから、彼女が愛おしくてたまらなかったから。
無茶な求婚をされた彼女は困った顔をした。やがて目を伏せ「そう…ね」とだけ。それだけだった。拒否もされなかったが肯定もされなかった。当時の自分は彼女のそんな煮え切らない態度がとても不満だった。
でも…だからといって彼女は何と言えただろう。もしも僕が彼女の立場だったなら、彼女と同じように返答に窮したはずだ。無論、YESなんて言えない。言えるはずがない。ではNoと言えるか?相手の心を傷つけずにNoと言えるだろうか?おそらく無理だ。