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【全話版】ストリート・キス
第10章 彼女のウィーン行き〜結婚しよう
 当時の僕は彼女の心がわからなかった。自分のことしか頭になかった。若さゆえのわがままで、彼女を困らせただけだ。
 ちなみにだが、打算も将来的なものも一切考えずに、ただ純粋に「愛しているから」という唯一の理由で求婚したのは、あとにも先にも彼女しかいない。僕のとっての唯一の女(ひと)…。



 彼女がウィーンへ出発する当日、見送りには行かなかった。僕たちの周囲の人にとって僕の立場はあくまでも彼女の勤務先の同僚だ。変に目立って違和感を覚えさせてはいけない。彼女からも見送りに来てとは言われなかった。もしかすると来て欲しかったのかもしれないが、わからない。
 彼女という人は、こういう時に素直に自分の気持ちを言わないでおいて、あとになってから不満をぶつけてくる。たびたびそれをやられて、そのたびに僕は困惑したものだ。あの時、そう言ってくれたら良かったのにと…。
 彼女が行ってしまうと僕の心はポッカリ穴が空いたようになった。ウィーンから何かしらの連絡をくれる話など聞いていない。きっと一人になりたいのだ。そう思った。
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