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謀殺された王子は 復讐者として淫らに返り咲く
第17章 ハンマームにて(前)



……───


『 証明したよバヤジット!お前の助けがなくっても、僕はラクダにくらいのれるのだとな 』


『 ──殿下!? きっ…危険です!今すぐそれから降りてください!いいや駄目だ…っ…私が降ろしますからそのままどうか動かずに!』


『 おりるものか 』


 小さな身体がラクダの背の上で得意気にこちらを見下ろす。

 早朝の、他に兵士がいない練兵所で。あの方は俺がいくら慌てようと気にしない。


『 ああ~違います違います!もっと手網を強く引いてください!』

『 そう焦るな。それよりやくそくを覚えているな? 』


 そうだ、あの頃は

 まだ殿下の顔には笑みがあった。兄である陛下から遠ざけられようと、侍従達の陰湿ないやがらせを受けようと、生まれ持っての明るさでそれらを跳ねのけていた。


『 ラクダを上手くのりこなせるようになったら、僕を近衛兵にするとやくそくした! 』

『 約束!? いやいやまさかっ…殿下が勝手に提案しただけで 』

『 何を言う。たしかにお前は僕に誓ったぞ 』


 見上げた目を細めてしまうほど、美しく煌めいていた。


『 僕は近衛兵となり、誰よりもそばで兄さまを支え──誰よりも近くでお守りするのだ 』


 あの頃の殿下はまだ、信じておられた。

 王位継承権を放棄すれば、自らを疎ましく思う兄の好意を取り戻せると──。

 また昔のように、仲睦まじく暮らせるのだと。

 俺だって、……あの時は同じように思っていた。


『 …っ…ですが殿下、それは我々の役目です 』

『 そんな事はない。僕にだって兄さまを守れるさ 』

『 勿論です!これほど頼もしい貴方のお姿を見られたなら陛下も喜ばれるに違いありません。…ただ忘れて頂きたくないのは、貴方をお守りするのもまた私の大切な使命だということです 』

『 …僕を?どうして?』

『 貴方もまた我が国の宝です。王弟殿下 』


 陛下も、殿下も、俺はどちらも守りぬけるのだと信じていた。

 疑わなかった。

 それからほんの数年後──あの方に刃を向ける日が訪れるなどと、想像していた筈がない。



 ……何故こうなった?


 戻りはしない笑顔


 忘れることのない罪(くさび)


 何故、俺は今


 あの頃の貴方を思い返してしまうのだろうか……






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