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幼馴染のお兄さん
第1章 ショートストーリー
「可愛い」
彼がそう言ってくれるのは、意地悪な仕打ちの後、私が涙目でにらむ時だけだった。
4つ上の近所のお兄さん。
何代か前の先祖が兄弟という遠縁で、お互いの家に勝手に上がってくつろいだり出来ちゃう関係。
いわゆる幼馴染。
「なかなか大きくなんないよな」
中学生の頃、いつもみたいにじゃれついた私のぺったんこの胸に手を当てて、彼はふざけた事を言った。
「ブラなんか、いらなくね?」
まだ生理も来ていなかった私は、恥ずかしさよりも、馬鹿にされたと思って悔しかった。
ほのかな恋心を抱いている相手に、女として認識されてないみたいで。
「あはは、ごめん」
涙目でにらむと、彼は笑って私の頭を撫でた。
「可愛い可愛い」
まもなく彼に恋人ができて、私達の間に少しずつ距離が生まれた。親戚の集まりにもあまり来なくなった。
私は彼と同じ高校に入ったけど、彼は入れ違いに卒業して町を出て行き、次に会えたのは4年近く後だった。
「もう19歳?まじか…」
身内の新年会に現れた彼は、線が細くて淡い顔立ちのせいか、あまり変わってないように見えた。背は少し高くなったかもしれないけど、私も成長したから見上げるほどじゃない。
「大きくなったな」
つぶやくように言った彼の口は、そのままぽかんと空いていた。
視線は私の顔から胸に…このボリュームを見せつけてやるつもりで、わざとタイトなニットを着て出迎えてやった。
ーーふふふ、驚いたか?
かつて彼の恋人が嫉妬して遠ざけた未成熟な少女は、すくすく発育して今や誰もが振り向く乳を持つ年頃の乙女に育った。
「東京から帰ってくるんだってね」
「あ、うん。こっちで就職決まったから」
私の胸と会話する彼を見て、可笑しかったし、少し気分がスッとした。
もう少し、ほんの何年か待っててくれたら、この胸に最初に触れるのはあなただったのに。
「彼女とはまだ付き合ってるの?」
「え?彼女って…ああ、あの時の」
苦々しそうに首を振る彼の様子から、あまりいい別れ方じゃなかったんだなと思った。
「そっちは?彼氏とか…」
「まぁ、それなり」
思わせぶりに背を向け、親戚のにぎわいの中にまぎれた。