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月の裏で会いましょう-revised-
第21章 月の裏側へ(2)
そこに、ゆったりとしたリズムの曲が流れ始めた。
「咲良、泣かないで」
昴が私の手を引き上げた。抱き留められて、背中を優しく撫でられる。
甘く切ないメロディのジャクソンファイブのナンバーに、体を委ねた。
肩に顔をあずけ、止まらない涙で昴の肩が濡れた。
私のただ一人の弟。そしてそれは、世界で一番、愛しい男。
こんなに悲しいことが、あるのだろうか。
「その人と俺は、この曲でこうして踊った。あの時は本当に幸せだった。あの時はまだ、俺たちのあまりに深すぎる繋がりを、お互い知らなかった」
思い出す。
日が差し込むガレージのような建物が、昴の住まいだった。逃げ込んだ私は昴と並んで歯を磨いて、一緒にいようと約束した。ミントの香りがして、ラジオからはちょうど今流れているこの曲が聴こえていた。
昴が耳元で囁く。
「でも俺は思った。誰も俺たちを知らない場所で、もう一度出会い直せたらいいって。月の裏側みたいな場所でさ」
「昴」
───誰か・・・
虚空に向かって叫び続けていた心が、昴を捕らえた。私が呼びたかった名前。心から求めていた人。昴。
「俺はいまでも彼女が好きで、これから死ぬまで、その人を愛したいと思ってる。その人が、それを望んでくれるかはわからないけど」
昴の背中に回した手で、彼のシャツをぎゅっとつかみ、私は言った。
「望んでる」