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月の裏で会いましょう-revised-
第5章 臆病風
生命が最優先で行われた手術は十時間かかった。意識を取り戻した時、一命をとりとめた。

傷が落ち着いたところで、医師から、生殖機能を取り戻すことはできないと告げられた。

初めはなんとなくその話を受け入れたものの、じわじわとそのことの重大さと深刻さに気付き始め、ゆっくりと坂道を降りるように、暗い場所へと踏み入れていく気分だった。

ふと振り返ると事故の前に私がいた場所はずっと高い場所にあって、さんさんと日が照っている。ゆっくりと下ってたどり着いた穴の底は暗く湿っていて、立っているだけで暗い空気が体内にまで充満するような、そんな場所だった。

命が助かっただけ幸福なのだ。そう何度も言い聞かせて心の蓋を閉じ続けたけど、私はあの時、絶望のなかにいたのだと、今になってわかる。

子供を設ける、という未来を失った私は、結婚と無縁な生き方を選んだ。結婚したい相手と巡り逢えば自然、子供を望めないという事実に直面しなければならない。自分が失ったものを再確認するような事態に陥りたくない。

だから、結婚や、それにつながる交際について、積極的にならないようにしてきた。
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