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一夜限りでは終わりたくない
第1章 一夜限りの関係
今日の営業先は前回訪問時に担当とは挨拶を済ませたが、先方の部長に挨拶をしていないので部長との初対面だ。
「はじめまして、前任から引継ぎ致しました、桜井 奈々と申します。どうぞ宜しくお願い致します。」
私がお辞儀して名刺を渡すと、部長は少し微笑みながら自分の名刺を私の前に差し出した。
この部長も女性にはかなり人気と聞いているが、どこか危険な雰囲気のする男だ。
「これからよろしくお願いしますね。涼子ちゃんも素敵な女性だけど、桜井さんもキュートな女性で僕は嬉しいよ」
初対面の他社の営業に対して、なんて軽い口調なのだろう。
私は無意識に顔を強張らせていたらしい。
「ごめんね…桜井さんの気分を害してしまったかな…お詫びと言っては何だけど、このあとご飯でもどう?」
何を言い出すのだろうと思い、断りの言葉を探した。
「申し訳ございません。せっかくお誘いいただきましたが、急ぎの仕事があり戻らなくてはならないので…」
するとこの部長は口角を上げた。
「そう言うと思っていたので、君の会社の営業部へ連絡はしてあるよ。今日は戻らなくて大丈夫だと確認は取ってある。」
何という手回しのよいことだ。初めからこの男は食事に私を連れて行く予定だったのだ。