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淫夢売ります
第3章 常識の檻:一線を越える時
【常識の檻】

「すいません」
扉を開け、戸口をくぐると、予想以上に店内は暗かった。
ビロードの幕のようなものがそこここに垂らしてある。噂以上に何やら怪しげだ。

店は奥行きがあり、奥の方から「どうぞ」と女性の声がする。
少し進み、暗幕を抜けると、若い女性が黒いクロスのかかった机の向こうに座っていた。
占い師というから、もうすこしエキゾチックな出で立ちを想像していたが、それほど奇をてらった服装でもない。黒を基調にした服、胸のリボンも黒色だった。
ついでに、その瞳も夜の闇を溶かしたような見事な黒色である。

吸い込まれそうだ・・・。

一瞬見た、その目はまるで不思議な魔力を宿しているようだった。
僕は促されるままに机の前に置かれた椅子に座る。

「今日はどういったご要件ですか?鑑定ですか?」
ユメノと名乗った女性は、にこやかに尋ねる。
「いえ・・・ええと、夢を売ってくれると聞いたのですが・・・」
僕はついどもりがちになってしまう。女性の前にいるといつもこれだ。
まあ、とユメノは口に手を当てる。

「もちろん、よろしいですよ。どなたかのご紹介ですか?」
「いえ・・・特には・・・そういう噂を聞いて・・・」
僕は言葉を濁す。
「そうですか・・・わかりました。
 では、少し説明したほうがよろしいでしょうか」
そう言うと、ユメノはビジネスライクに説明を始める。
曰く、夢は選ぶことができない、先払いで返金もできない、など。
ただし、「夢はあなた様の欲求に沿ったものになっている」とのことで、「絶対にご満足いただけますよ」とニコリと笑うのであった。

黒色の瞳と怪しげな店の雰囲気に最初は気圧されていたが、こうして話してみると至って普通の女性だった。少し緊張が解けてくる。

「わかりました。大丈夫です。ひとつ・・・夢を売って下さい」

ユメノが示した金額を支払う。

ユメノは手慣れた様子でトランプのようなカードを机の上にスプレットする。裏は星や丸などの幾何学模様が複雑に描かれ、表には、タロットカードのような奇妙な図案が描かれていた。
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