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淫夢売ります
第4章 常識の檻:一線の向こう側
☆☆☆

夢占 モルフェのテーブルでユメノが一枚のカードを眺めている。

「うつむく女性の背後から笑いながら手を伸ばす男性」のカード。
不当な支配を意味している。

「卑屈なあいつにピッタリのカードだったのに」
そのままポイと黒いクロスのかかるテーブルに放り投げる。

「なんだって邪魔するのよ。カグラ・・・」
ユメノがぶぜんとして見つめる先には、カグラと呼ばれた黒髪碧眼の男性が立っている。
「お前はわざと説明しなかったな?」
「だーって義理なんてないもの。
 『何度もカードを使用すると、現実との区別がつかなくなりますよ』
 なんて、教えてあげる必要ないじゃない?
 私は夢を売っただけなんだから。」
そういって、ニヤリと笑う。
「お前は、ああなることが分かっていたんだろう?分かっていて止めないのは犯罪者も同然だ」
「あら、人聞きの悪い・・・。それに、あのまま自滅することも含めてあの人の欲望だった・・・っていうのもあるのよ?」

そう、欲望を抑えて周囲を見返すためだけに「立派な自分」を演出し続けることに疲れていた。だからこその破滅願望。

「詭弁だね・・・。たとえ無意識に死の本能があったとしても、よく生きたいっていう本能だってあるものだ・・・。そっちだってお前の眼には映っていたはずだぞ」

そのウィジャの眼には、とカグラは言った。

「はいはい・・・。つまんないわね。まあ、いいわ。今回はあなたのマアトの瞳に免じて、ドローってことでいいわよ。」

ユメノはやれやれと肩をすくめて見せる。

カグラが店を出たあと、ユメノはテーブルに落ちたカードをもう一度取り上げる。

「まあ、今回はね・・・ただ、まだ・・・この人、夢を見ているわ・・・
 せっかく助けられたのに、次はもう・・・ダメかもね」

ふふふふふ・・・

ユメノの瞳の闇がひときわ濃くなる。
誰にともなく、楽しそうに笑う表情が、とてつもなく陰惨なのを知っているのは、テーブルの上のカードだけだった。
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