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淫夢売ります
第8章 You’re My Hero:奈落の底から
はあ、はあ、はあ・・・・。
汗が額を伝う。胸が押しつぶされそうに痛く、息苦しい。

また、失敗だ・・・。

病室のベッドの横、見舞客用の椅子の上で俺は目を覚ます。
ベッドには、幼馴染の最上京子が眠っている。

正確には、昏睡している。

脳死などではなく、自発呼吸はあるものの、この2ヶ月全く意識が戻っていない。目覚めない原因は不明だそうだ。

ただ、倒れた理由はわかっている。
俺は布団の上に出た京子の腕を見る。やせ細った真っ白い腕に、幾筋ものリストカットの跡がある。
何度も何度も傷をつけたのだろう。かさぶたの上から更に傷が付き、醜く盛り上がっているところもある。
そっと、布団の中に戻す。反対の腕もほぼ同じ状態だ。

”リストカット症候群”

あまりにも頻繁にリストカットを繰り返すと、たとえひとつひとつの傷が致命傷でなくとも、体液のバランスを失い、昏睡に陥る。場合によっては死に至ることもあるという。

いつの頃からか、京子はどんなに暑いときでも長袖を着るようになていた。
思えば、その時から、腕はこんな状態だったのだろう。

幼馴染だった京子と、大学に入ってから付き合うようになった。もともと、影の薄いところがあったが、付き合い始めてから急速に食事を摂らなくなった。そのうち、大学にも来なくなり、ある日、入院したという知らせを京子の母親から受けた。

その時、家族も俺も、初めて京子がこんなにも自分を傷つけていることを知ったのだ。

いつも寂しそうに、儚げに笑っていた京子が、誰にも言えない何かを抱え込んでいた。
幼い頃から見ていたのに、気づかなかった自分に一番腹がたった。

当初は数日もすれば意識が戻るはずだと言われていたにも関わらず、2週間経っても全く意識が戻る気配がなかった。病院から遠回しに転院を勧められたと京子の父親が腹を立てていた。打つ手がないから出ていけ、ということか・・・と。

俺はただ、傍に寄り添って見ていることしかできなかった。
時折、京子はうなされるようにしているから、きっと夢を見ているのだろうと思った。
しかし、どんなに声をかけても手を握っても、目が覚めることはなかった。
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