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淫夢売ります
第8章 You’re My Hero:奈落の底から
☆☆☆
ぷはあ・・・。
息を止めていたようだった。まるで水に潜ったあとのように、俺は肩で息をしていた。

病室、京子のベッドの横の見舞客用の椅子で俺は目を覚ました。
加賀美の首を絞めた生々しい感触が手に残っている。

京子は?

ベッドを見ると、京子が薄っすらと目を開けるところだった。

「京子!」
ベッドにしがみつくようにして、京子の手を取った。
「・・・陽介・・・」
弱々しいが、たしかに俺の名を呼ぶ。そして、ニコリと笑った。

「怖い・・・夢を見ていたの。
 でも、いつも・・・陽介が来てくれた。
 そして、目が覚めたら・・・陽介がいた。」

涙が溢れる。止められない。
手を握りしめて、嗚咽する。

「もう・・・どこにも行くな・・・」

そう言うだけで精一杯だった。

☆☆☆
「夢占 モルフェ」の奥、いつもユメノが座っている席の更に奥が従業員のスペースだ。
カウチがあり、休憩が取れるようになっている。簡単な食事を作ったりもできる。

そのカウチに、青ざめたユメノが横になっていた。
モルフェはここ2週間、店主の体調不良で休業をしていた。

その休憩スペースに男が入ってきた。黒髪、碧眼の端正な顔をした男だ。
「おかえり、カグラ・・・。」
薄っすらと目を開けてユメノは言う。
その目はいつもの闇色ではなく、コバルトブルーの海を思わせるような色をしていた。

「顔色がだいぶ悪い・・・。ギリギリだったね」
カグラは赤い背のカードをユメノに渡した。
「ちゃんと救い出せたのね・・・」
ホッとしたようにカードを受け取る。
「本来の使い方じゃないだろう。無理をしすぎだ。」
「大丈夫・・・まだなんとか・・・動けるから」
ユメノは身体を起こそうとするが、力が入らないのか、なかなか起き上がることができない。
「その様子じゃあ、喰えないだろ?カードを貸してくれ、俺が持ってきてやる」
カグラの言葉に対してユメノはなにか言いたそうにしていたが、結局はあ、とため息をつくだけで済ます。

その様子を承諾と受け取ったカグラは、机の横の引き出しからカードデッキを取り出すと、カードを1枚引き出して、店を出た。

「あーあ・・・あいつに貸しができちゃった・・・」
ユメノは右腕で目を覆うようにして、誰にともなく呟いた。
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