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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第5章 四の巻
 耳が痛くなるような長い、長い静寂の後、彼の眼の険しさに公子はふと息を呑む。
 凍てつく冷たさと煮え滾(たぎ)る焔のような烈しさ、真反対の感情が同時に宿る瞳。こんな眼をした男を、公子は生まれて初めて眼にした。
「俺はそなたを憎んでいる―、だが、同時に、そなたを愛しいと思う気持ちも確かに俺の心の中に存在しているのだ」
 そう、十五年前、初めてめぐり逢ったその瞬間から、彼はこの女に心奪われた。いつも刃向かい、堂々と臆せずに物を言う少女に対する複雑な想いを抱えて成長した。
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