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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第5章 四の巻
 築地塀の向こうは、無限の闇がひろがっている。夜も更けた頃とて、都大路には人影どころか、犬の子一匹見当たらない。
 昼間は陽の光を嫌い、闇に潜む魔物が人の世界に彷徨い出でくる時間帯でもある。およそ深窓の姫君が出歩くような時間ではない。
 公子は眼の前に続く闇を見つめ、一瞬、心細さを憶えた。自分一人では、こんな人気のない道に放り出されてしまったら、きっと泣いてしまうだろう。幾らしっかりした姫だとはいえ、所詮は左大臣家の姫として大切にかしずかれて育った身なのだ。
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