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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第6章 伍の巻
風が吹く度に、たっぷりと花をつけた枝が水底(みなそこ)の藻のようにそよぐ。頭上高くで小鳥の鳴き声が響き、公子は空を見上げた。
―あれは何の鳥かしら。
そんなことを考えながら、鳥の囀りに耳を澄ませてみる。
優しいせせらぎは昔、眠りに落ちる前に乳母が聞かせてくれた子守唄に似ている。
こんなに穏やかな心持ちになれたのは、久しぶりのような気がする。満ち足りた気持ちでなおも鳥の唄とせせらぎの音に聞き入っていた。