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ネコの運ぶ夢
第8章 ネコは残業を待てない
結局、事案処理が終わったのは、午後9時を大幅に回った頃だった。家に着くのは10時を過ぎる。

まずい・・・音子・・・。
どんな状態で待っているかわからないが、あいつの性格からして、先に飯を食って風呂に入ってるなどということは絶対に有り得ない。

嫌な予感がする。

取るものもとりあえず、駆け出すように職場をあとにする。

視界の端で「課長どうしたんだ?あんなに急いで」という山内の声と、「飼ってる猫ちゃんが心配なんだと思います」という朝霞くんの声、「女と約束してたんじゃねえの」という木下の若干失礼な言葉が聞こえた気がするが、とりあえず無視だ。

☆☆☆
自宅最寄り駅についたときには、酷い夕立(いや、もう夜中だから夜立ち?)だった。闇夜に雷が激しく瞬く様子が電車の中からも見えており、雨が激しくアスファルトを叩いている。

傘持ってねーや。

夏にふさわしくないほどのひんやりとした風が吹き抜けてくる。夏の軽装では寒気を感じるくらいだ。

コンビニで傘買って、早く帰らないと・・・。

ビカッとまた稲光が走る。すぐさま轟く雷鳴。
隣りにいた女性が小さい悲鳴を上げる。

駅の改札を出る。そこで、俺はギョッとした。
駅の柱に音子が頭を抱えてうずくまっていた。雷鳴が轟く度に身を震わせ、遠目にもガタガタと震えているのが分かる。服も薄着で、あの格好で、この気温では風邪を引いてしまう。

「音子!」

駆け寄って抱き起こす。七分袖のワンピースから出ている腕が異常に冷たく、体全体がぐったりしている。その上、彼女の顔は蒼白だった。

「おい!音子!!」

薄く目を開けると、やっと俺の方を見る。
なんだ、一体何が起こった?

「よか・・・た・・・市ノ瀬・・・さんが、帰ってこなかったらどうしようって・・・私・・・」
「帰ってきたよ。すまん、仕事が遅くなった。お前、いつからここにいるんだ?雨に濡れていないか?」

音子は力なく、首をふる。
体に触れた感じ、濡れてはいない。

「ごめんなさい・・・お家にいられなくて・・・私・・・怖くなっちゃって」
とにかく、手を握って温める。首筋も冷たい。早く温かいところに!
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