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ネコの運ぶ夢
第11章 消えたネコ
☆☆☆
眠れない。

市ノ瀬さんの寝息が聞こえる。眠りにつくと、呼吸の様子が変わるのですぐに分かる。寝ているなら、わからないよね?

私は身体を起こすと、市ノ瀬さんを起こしてしまわないように、そっと手のひらでお顔や額、頬を撫でる。

ここに来た日のことを思い出す。あのときは本当に限界で、どうしていいか分からなくて、そして、そもそも動けなくて、この家の前でうずくまっていた。

捨て猫のようだ、と思っていた。行き場がない猫、野良猫はすぐに死んでしまうという。私もそうして死ぬんだと本気で思っていた。

市ノ瀬さんに名前を聞かれた時、咄嗟にみーちゃんのことを思い出した。猫になりたかった。どうせ捨て猫だ。だから「ネコ」と答えた。漢字は適当。音楽が好きだったから音、あとは知っている人の名前を適当に。

こうして私は「美鈴音子」になった。最初は冗談みたいだと思った。

初めて市ノ瀬さんと一緒に寝た時、お礼をしなきゃと思った。女の私ができる精一杯のお礼。お金も持っていない、なにもない私が役に立てるのはこれくらい、そう思って、経験がなくて怖かったけど、彼のモノに手を伸ばした。

でも、市ノ瀬さんは私にそれをさせなかった。

どうしてと思ったけど、「そんなつもりじゃない」とだけ言った。そのとき、私は勘違いかもしれないけれど、「ああ、役に立たなくてもいていいんだ」と思ってしまったのだ。

それが勘違いじゃないことは市ノ瀬さんと一緒にいてすぐにわかった。
市ノ瀬さんは、私が何かをすることを求めなかった。そして、私の気持ちを考えてくれたし、それに応えようとしてくれた。

私を自分の役に立てようとするのではなく、自分が私の役に立とうとしてくれた。

これまでの私の人生にないものをいっぱい、いっぱいくれた。

だから、市ノ瀬さん、あなたのことが好き。
言葉にしきれないくらい、大好きだよ。
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