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ネコの運ぶ夢
第11章 消えたネコ
本当は、今日、今日だけは、市ノ瀬さんに抱いてほしかった。わがままが言えるなら、「私をあなたのものにして欲しい」と言いたかった。

でも、きっと、そう言ったら困らせてしまうのも分かっていた。言えば、きっと優しいあなたはとても困った顔をして、そうしない言い訳を考えようとするだろう。私を傷つけないように、たくさんたくさん言葉を選んで。

市ノ瀬さんはいつも私を大切にしてくれる、私のことを一生懸命考えてくれている。それは痛いくらいに分かる。だから、きっと、ただただ困らせてしまうだけなんだ。

それに、そもそも私は市ノ瀬さんに愛してもらえるような人間ではない。私がここにいれば、市ノ瀬さんの迷惑になってしまう。

なにかの小説で読んだセリフが思い出される。

「運命からは逃げられない」

その言葉どおり、今日、その運命が私のもとにやって来た。あの人達は、私に猶予なんて与えない。

この温かい人の迷惑にだけはならないように。
この人だけは、世界一幸せになって欲しい。

だから・・・

「さよなら・・・市ノ瀬さん」

呟いた声は、闇に溶けて消えた。
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