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ネコの運ぶ夢
第12章 夢幻のネコ
☆☆☆
「おーい、こっちこっち!」
居酒屋の席ですでに陣取っている谷山がこっちに向かって手を振る。だいぶ卓の上がにぎやかだ。いつからいる、お前。
座って、俺もビールを注文。飲み物が届いたところで、谷山と杯を合わせる。
「手がかりって?」
開口一番聞いたのがいけなかったのか、ニヤリと谷山が笑う。
「お前、相当お熱だねぇ」
セリフが昭和だ。まあ、お互い様か。

「結論から言うと、この子の名前は『中条静香』。財閥系の名家、中条家の次女。最近まで海外留学していた、ってことになっている。」
音子というのが偽名だというのはうすうす感じていた。美鈴音子だなんて、マンガのようだ。そして、やっぱりお嬢様か。

「でも、彼女は家がないと言っていたぞ。」
「ああ、それなんだがな。中条家は現在、静香の父親である中条京介が当主だ。こいつは交通インフラ、通信、観光業など手広く会社を経営している。最近は環境問題にも取り組んでるってことだ。マスコミへの露出も多いね。」
「そして、妻の玲子。派手なセレブって感じで、社交界で広い人脈を誇っている。夫の事業を陰で支えているって噂だし、政界にも顔が利くって話だ。」
「長女の中条京子は20代後半という若さですでに観光事業のコンサル会社の経営者って肩書を持っている。この会社も大分羽振りがいいようだ。」
「そして、静香には弟もいて、康介と言うが、東大の経済学部を卒業し、それこそアメリカ留学中だ。将来は父親の跡を継ぐってもっぱらの噂だ。大学生にしてすでに起業しており、経済誌なんかにインタビュー記事を寄稿している。」

ま、華々しい家族だよ。谷山は長い説明をそう締めくくった。

「静香は?」
「そうそう、静香だな。こんな華々しい一家だが、静香については全く露出がない。そもそも、中条家は世間的には二人姉弟ってことになってるくらいだ。いないとは言ってないが、『いる』とも言ってない、というのが一番正確な言い方だな」
谷山はねぎまをかじると、ぐいっとジョッキに残ったビールを飲み干す。すかさず、サワーを注文。こいつ、奢らせる気だな。
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