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ネコの運ぶ夢
第12章 夢幻のネコ
どういうことだ?財閥系お嬢様で何不自由なく暮らしているってわけじゃないというのはわかった。それに、音子は「家では誰も私の名前を呼ばなかった」と言っていたし、「ずっとひとりだった」と言っていたこともあった。

「静香は、中条家から抹消されていた、みたいな?」
そんな状況が浮かんでくる。確かに家族だが、どういうわけかひとりだけ『いないもの』として扱われている。

「ああ、そうだな。お前から調べるように言われるまで、そんなふうに思わなかったが、調べれば調べるほど、不自然に静香の情報は少ない。まるで、一族総出で彼女の存在を消そうとしているようだ」

もつ煮を自分のところに取り分けながら考える。だとしたら、納得がいく。「ネコは捨てられたネコで、帰る家がない」というのも、分かる気がする。

「最近、なにか変わったことが中条家であったか?」
「さあ、そこまではわからないな。ただ、昨年の終わり頃、子どものうちの誰かが結婚するって噂はあったみたいだ。いつの間にか流れちまったけどな」
「結婚!?」
「まあ、それが京子なのか、静香なのか、はたまた康介なのかまでは分からないが。いや、康介はないか。どうやら政略結婚に近いもののようだったから。政界で幅を利かせている代議士一家との噂だったからな。女性だと考えるのが筋だろう。」

この令和の世の中にまだそんな話があるのかよ。驚きのあまり、だし巻き卵の味もわからなくなる。

「わかったのはここまでだ。しかし、もし中条の家にこの可愛い子ちゃんがいるとして、会いに行くのは至難の業だと思うぞ。こんちわ!って行って、入れてくれるところでもないだろうし」
薄焼きピザを口に詰め込みながら喋るので、やや聞き取りにくい。

「ああ、それについては考えがある。」
負けじと俺もピザを頬張る。

音子の居所はわかった。あとは、俺が勇気を出すかどうか、だ。
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