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ネコの運ぶ夢
第15章 ネコの運ぶ夢
☆☆☆
ちょうど、家には親子丼の材料があった。
俺が作った親子丼を元気にかっこむと、音子は「ぷはー」と息をつく。お腹が空いていたのは本当だったらしい。

「どうやって戻ってきたんだ?」
こくこくと麦茶を飲む音子に尋ねる。
「話せば長くなりますが・・・」

音子が言うには、俺が中条の家を尋ねたあと、彼女は当主である京介と交渉したそうだ。結婚をするかわりに、その前に中条の家から分籍させて欲しいと。

音子が嫁ぐことになっていたのは、大病を患った40代の男性だったそうだ。余命幾ばくもないが、結婚だけはさせてあげたいと、向こうの両親のたっての希望だったそうだ。

中条の家とは支援関係にあり、家同士の結束を強めるためのこの婚姻について反対する者はいなかったという。
中条の家としては、病床の夫が死ねば、音子を通じて支援関係を思うがままにできると考えたのだろう。分籍には実質的な縁切りの効果はない。それを分かっていて、音子の申し出を快諾したようだ。ついでに、中条の家から不倫の子を戸籍的にも排除できるという目算もあったのかもしれない。

ところが、結婚後、音子は1年をかけて夫を献身的に看病し、夫やその両親との間に信頼関係を築いていった。そして、最終的に夫が亡くなった後、自分を自由にして欲しい、とお願いしていたというのだ。

「先月、夫は亡くなりました。とても、いい人でした。市ノ瀬さんのことを話したら、泣きながら聞いてくれました。」

相手のためにも嘘はつきたくなかったのだという。音子は、相手の男性やその両親に、俺のことを包み隠さず話したというのだ。そして、それでも相手の男性も両親も、音子を受け入れてくれたのだった。

そして、夫が亡くなった後、音子は死後離婚を申し立てた。

「これで、中条の家は私のことを完全に『不要』と見做しました」
分籍もし、あちらの家との姻戚関係もなくなった今では、完全に使い物にならない、というわけだ。

「市ノ瀬さんが私に運命と戦う勇気をくれました。あの日、市ノ瀬さんが中条の家に来てくれなかったら、私は今でも京介の操り人形だったでしょう。」
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