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トライ アゲイン
第8章 安祐美の母

由美子は安祐美が眠りから覚めない病室のソファでうたた寝をしていた。

「失礼しますよ」

看護師の梨田が病室に入って来たのにも気づかなかった。

「お母さん、大丈夫ですか?」

梨田が、優しく由美子の肩を叩いて起こしてくれる。

「やだ…私、寝ちゃっていたのね…」

「娘さんの事が心配なのは重々承知です
でも、このままじゃあなたが倒れてしまいますよ
前にも言いましたが、一度帰宅されてゆっくり休んでください。
安心してください、もう娘さんの体で遊ぼうなんて思っていませんから。
僕はね、真剣にあなたの事が心配なんです」

看護師の梨田は肉体関係を結んでしまったことで、
入院患者に手を出すことをキッパリとやめていた。
うんともすんとも言わぬ女を弄るよりも
自分の行為にあえいでくれる女の素晴らしさを知ったからには、そっちの方が快感を得られる事を知ったからだ。

「いえ…梨田さんの事を疑っているわけではないんですけど、この子が目覚めたときにはそばについていてあげたいから…」

「お気持ちはわかりますが、
僕はね、真剣にあなたの事が心配なんです!
娘さんが目覚める兆候が現れたら必ずご連絡しますから、どうか、体を休めてくださいな」

梨田の真剣な眼差しは母の由美子に信頼を与えてくれた。

「それじゃあ…お言葉に甘えようかしら…」

ええ、それがいいですよ

梨田の言葉に促されて
由美子は久々に我が家に戻った。

夫婦の寝室に足を踏み入れて
由美子はめまいがするほど驚いた。
夫の太郎には整理整頓という言葉がないのかと思うほど衣類が脱ぎ散らかされていた。

『あなた、ごめんなさい…
まったくあなたをかまってあげれなくて…』

脱ぎ散らかした衣類をまとめて洗濯しようと抱きかかえた時、仄かに香る香水の匂いに気づいた。
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