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添花の愉悦
第1章 添花の愉悦
涼成にじっと顔を覗き込まれ、環は息を呑んだ。
程よく日に焼けた顔に、整ったまっすぐな鼻梁、くっきりと美しい稜線を描く唇、長い睫毛の下で鋭く光る瞳。
思わず目を背けると、いきなり唇を奪われた。
「んっ」
初めてのキスだった。
涼成にとってはこんなことはあいさつ代わりなのだろう、環は思った。そうだとしても奥手な環にとっては大切なファーストキス。心の準備もままならないまま、何度も夢に見つづけた甘やかなはずの行為が、突然始まり、一瞬にして終わった。
「ひどい」
環はキスされたはずみでずれたメガネを、外して机に置いた。
そして、ピントの合わないとろんとした目で、涼成を見つめた。
つぎにどぎまぎしたのは涼成のほうだった。分厚いレンズを取り去った環の瞳は思いのほか美しかった。その視線に縫い留められるように、涼成の動きが止まった。
「ひどい。初めてだったのに」
環は言った。それから涼成のシャツの襟をぎゅっとつかんで、上気した頬を涼成の頬に近づけた。
「初めてなんだから、もっとちゃんとして」
教室の片隅でいつも本ばかり読んでいる大人しい環が、まるで蛹を脱ぎ捨てたばかりの蝶のように艶やかに涼成の目に映った。
涼成はあらためて環の小柄な体を抱きしめると、柔らかく唇を重ね合わせた。環の手がそろりと背中を這った瞬間、涼成ははからずも、環の虜になってしまった。
───この女はやばい
涼成のみぞおちの奥でうごめく野性の本能が、危険な匂いを察知した。その香りはあまりに甘く、涼成を溺れさせる毒をはらんだ香りだった。
程よく日に焼けた顔に、整ったまっすぐな鼻梁、くっきりと美しい稜線を描く唇、長い睫毛の下で鋭く光る瞳。
思わず目を背けると、いきなり唇を奪われた。
「んっ」
初めてのキスだった。
涼成にとってはこんなことはあいさつ代わりなのだろう、環は思った。そうだとしても奥手な環にとっては大切なファーストキス。心の準備もままならないまま、何度も夢に見つづけた甘やかなはずの行為が、突然始まり、一瞬にして終わった。
「ひどい」
環はキスされたはずみでずれたメガネを、外して机に置いた。
そして、ピントの合わないとろんとした目で、涼成を見つめた。
つぎにどぎまぎしたのは涼成のほうだった。分厚いレンズを取り去った環の瞳は思いのほか美しかった。その視線に縫い留められるように、涼成の動きが止まった。
「ひどい。初めてだったのに」
環は言った。それから涼成のシャツの襟をぎゅっとつかんで、上気した頬を涼成の頬に近づけた。
「初めてなんだから、もっとちゃんとして」
教室の片隅でいつも本ばかり読んでいる大人しい環が、まるで蛹を脱ぎ捨てたばかりの蝶のように艶やかに涼成の目に映った。
涼成はあらためて環の小柄な体を抱きしめると、柔らかく唇を重ね合わせた。環の手がそろりと背中を這った瞬間、涼成ははからずも、環の虜になってしまった。
───この女はやばい
涼成のみぞおちの奥でうごめく野性の本能が、危険な匂いを察知した。その香りはあまりに甘く、涼成を溺れさせる毒をはらんだ香りだった。

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