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第32章 目元



 相馬のことは、前のチームにいたときから知っていた。相馬が私を認知する前から。



 一緒に新入社員研修を受けた同期はたくさんいるから、全員の顔と名前が一致するわけではないけれど、相馬のことを知らない同期はきっといないだろう。

相馬ははじめからずっと優秀で、人気者だった。

研修が終わって散り散りになってからも、相馬が目に入ることは多かった。
彼はいろいろな部屋を渡り歩いていたし、何か提案が採用されて偉い人の会議に出たり、みんなの前で説明したりすることも多かった。



仕事の話だけではない。
相馬が部屋に来るたび女の子たちが色めき立つのだから、いくら社内に友だちが少ない私でも、自然と噂が耳に入るというものだ。

期待のエースだの、彼氏にしたい男子ナンバーワンだの。
彼女がいるらしいだの、それはデマらしいだの、誰それが狙っているらしいだの――



「相馬はモテモテだから、きっとワンナイト? とかも日常茶飯事なんでしょうけど」

「なにそれ皮肉?」

 相馬はにやりと笑う。あんまり嬉しくはなさそうだった。

「悪かったな、本命にだけはモテなくて」



「別に、」

 ……私のことが本命だって言うのなら……、

「モテてんじゃん、今」

 口から呟きが漏れたけれど、幸い相馬には届かなかったようだった。



「ほんと、なんでこんななんだろうな……」

 項垂れる相馬は本気で悩んでいるように見えた。


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