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第39章 カレー
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ずいぶん長いこと自宅に帰っていなかったような気がしたけれど、たった一日ぶりの自宅に帰った。
相馬は私を駅まで送ってくれて、私もそれを強く拒みはしなかった。
土曜日の晩なんて、会社の人とすれ違うリスクも低いし――たぶん。
「うわ……なんか」
駅に入って、改札の前までついてきて、そして相馬は離れかけた私の手を握り直した。
「何?」
「いや……何でもない」
手を離す。
「この歳になって言うことでもねえわ」
たぶん――私と同じことを思っていた。
だといいなと思った。
人とお付き合いしたことだって、別れたことだって何度もある。
付き合いたてのテンションを後で振り返ると結構痛くて恥ずかしいことも、私だって相馬だって、この歳になればさすがに経験済みだ。
私たち、そんなに子どもではない。
そんなにピュアじゃない。
だから、いちいち寂しくなったりしない。
「いや、やっぱ言うわ」
相馬が顔を上げて、私はどきりとした。
「寂しくなった。帰らせたくない」
相馬は私と違って、まだ無垢だった。いい意味で。

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