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天狐あやかし秘譚
第75章 生離死絶(せいりしぜつ)

実際、左前の呪法はほぼ完全に緋紅を捉えていた。緋紅は八握剣による防御や反撃を諦め、道返玉によって鬼道を開き、そこに逃げ込もうとしたのだ。実際はそれすら間に合わなかったが、開いた鬼道が緋紅を守るような形になったことから緋紅自身へのダメージが大分軽減されてしまったのだ。
緋紅にとっては怪我の功名、左前にとっては不運だったと言わざるを得ない。
「よくも・・・やってくれたね・・・」
緋紅が周囲を見回す。
「あの蝶ももういないみたいだ・・・。少し遊んで帰ろうと思っていたけど・・・気が変わった。全員、殺すとしよう・・・」
『五段目・・・っだ!』
ー五段目!?
土門と左前はその言葉にたじろぐ。それは緋紅が疱瘡神事件のときに見せた神がかった力が放たれることを意味するからだ。
「まずいのですっ!」
「土御門さんっ!」
八握剣がひときわ強く輝き、その光に照らされた緋紅の傷が嘘のように癒えていく。そこに収束しつつある力は土門や左前をして、死を予感させるに十分なほどのものだった。
それに反応し、土門が再び夜魂蝶を呼び出すための符を、左前が防御の水公結界術の呪言を唱えはじめたその時、
「瀬良ちゃん!ええか!?」
「こんなときに、『ちゃん』とか言わないっ!!」
緋紅の視界から外れていた土御門の前に、瀬良が立っていた。上半身が裸であり、そこには不思議な文様が浮かび上がっていた。それは全身に施された呪的な入れ墨のようにも、炎のような模様にも見えた。
瀬良の背後で、土御門が印を結ぶ。
それを見た緋紅が怨嗟のこもった声を放つ。
「今更、何を呼び出そうとも無駄っ!背後の狐ごと、全て灰燼となれ!」
「行くで!瀬良ちゃん!」
「だからっ!!」
土御門が式神勧請のための呪言を奏上する。
『天一貴人 上神 家在 丑主福徳之神 吉将 大无成!』
その朗々とした声に反応し、瀬良の全身に施された呪紋が青く発光する。ふわりと彼女の身体が浮き上がり、浮き上がるほどに青い光は次第に力強く、そして白色へと変わっていく。
ーなんだ!?あれは・・・っ!
これまでの部下の報告にもない、自分の知識にもない。目の前で起こっていることに緋紅の理解は追いついていなかった。
・・・天乙貴人!(てんいつきじん)・・・
土御門が最後の呪言を唱えた。
緋紅にとっては怪我の功名、左前にとっては不運だったと言わざるを得ない。
「よくも・・・やってくれたね・・・」
緋紅が周囲を見回す。
「あの蝶ももういないみたいだ・・・。少し遊んで帰ろうと思っていたけど・・・気が変わった。全員、殺すとしよう・・・」
『五段目・・・っだ!』
ー五段目!?
土門と左前はその言葉にたじろぐ。それは緋紅が疱瘡神事件のときに見せた神がかった力が放たれることを意味するからだ。
「まずいのですっ!」
「土御門さんっ!」
八握剣がひときわ強く輝き、その光に照らされた緋紅の傷が嘘のように癒えていく。そこに収束しつつある力は土門や左前をして、死を予感させるに十分なほどのものだった。
それに反応し、土門が再び夜魂蝶を呼び出すための符を、左前が防御の水公結界術の呪言を唱えはじめたその時、
「瀬良ちゃん!ええか!?」
「こんなときに、『ちゃん』とか言わないっ!!」
緋紅の視界から外れていた土御門の前に、瀬良が立っていた。上半身が裸であり、そこには不思議な文様が浮かび上がっていた。それは全身に施された呪的な入れ墨のようにも、炎のような模様にも見えた。
瀬良の背後で、土御門が印を結ぶ。
それを見た緋紅が怨嗟のこもった声を放つ。
「今更、何を呼び出そうとも無駄っ!背後の狐ごと、全て灰燼となれ!」
「行くで!瀬良ちゃん!」
「だからっ!!」
土御門が式神勧請のための呪言を奏上する。
『天一貴人 上神 家在 丑主福徳之神 吉将 大无成!』
その朗々とした声に反応し、瀬良の全身に施された呪紋が青く発光する。ふわりと彼女の身体が浮き上がり、浮き上がるほどに青い光は次第に力強く、そして白色へと変わっていく。
ーなんだ!?あれは・・・っ!
これまでの部下の報告にもない、自分の知識にもない。目の前で起こっていることに緋紅の理解は追いついていなかった。
・・・天乙貴人!(てんいつきじん)・・・
土御門が最後の呪言を唱えた。

