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天狐あやかし秘譚
第99章 焦眉之急(しゅうびのきゅう)
そこは、森の木々がポッカリと不自然に円形に開けた場所。
鳥の声も、虫の音も聞こえない。
生命が死んだ場所。

フシュウウウウ・・・

獣臭い息を吐いて、そいつが現れた・・・
四足獣
不自然に長い手足
目が白銀に輝き、赤い口が耳まで裂けた異形の獣・・・

それが・・・それが母の首を口に咥えて

『きゃあああっ!!!』

私は絶叫した。涙をぼろぼろ流して、転んでおしりをついた姿勢で。そして、そいつは、そいつは・・・虚ろな目をした母の首を咥えたまま、そいつはゆっくりと・・・

嗤ったんだ。

思い出した記憶の奔流。私はいつしかそこに立ち尽くしていた。

なにコレ、なにコレ、なにコレ、なにコレ!!

これは記憶、私の記憶・・・!
母は、母は遭難したんじゃない。そうだ、なんで忘れていた!?なんで警戒しなかった!?
だって、だってあいつ、あいつはこう言ったじゃないか!

『10年待ってやるから、せいぜい、遠くまで逃げろ・・・な?』

ガタガタと足が震える。この匂い、この音、この空気・・・!
あいつが・・・あいつが・・・あいつが・・・

ズキンと首の後ろに痛みが走る。咄嗟に手をやるとそこがガサガサになっていてまるで爛れているかのようだった。その手触りを感じたそのとき、後ろから声が聞こえた。

「長く待ったよ・・・」

それは記憶のままの・・・あいつの声
あの時の闇の獣の声だった。

「みーつけ・・・た」

不思議なことに、見えていないのに、私にはそいつがニタリといやらしく嗤うのが感じられていたのだった。
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