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天狐あやかし秘譚
第78章 怪力乱神(かいりきらんしん)

「九道閉塞
我を追う者は極みへと退けよ
車為す者はその車軸が折れよ
馬為す者は目を闇くせよ
歩きたる者は踵を挫け
兵を挙げたる者は悉く伏せ
明星 北斗 此の敵を却せよ
牽星 織星 海となせ川となせ
急ぎ急ぎて律令のごとく・・・」
タン、と最後の一星を踏み、麒麟に向かい素早く九字を切った。
「行為せよ!」
歩法によって地に描かれた九星が光を放ち、周囲に波紋を広げていく。同時に左前が放った水の剣が麒麟とそれに乗ったクチナワを取り囲むように地に刺さった。
「何だ!」
クチナワが声を上げる。一瞬動揺をした様子だが、麒麟自体にダメージがないと分かるとホッとしたのか、ぽんとその腹を蹴って指示を出した。
「麒麟よ、この妙な術を打ち払え!」
麒麟は神獣である。クチナワが使える妖魅の中でも最も位が高いものと言ってもいい。そんじょそこらの術は効かないはずだという自負が彼にはあった。
麒麟は首を挙げ、一声いななくと、周囲を見渡した。地からは反閇の光、周囲には水の檻。どうにもここは居心地が良くない、そう感じていた。最も結界の弱いところを突いて、ここは一旦外に出よう。
それが麒麟の下した結論だった。
甲高い声をもう一声上げ、麒麟が結界内で最も弱い部分に自身の角を突き立てる。土気を有するその角の前に、あっさりと左前の水の剣は軽い音を立て砕け散った。
ーこれで、自由だ・・・
麒麟はそこから結界を出ようとする。ちょうど、反閇を仕掛けている術者とも距離が取れて好都合だ・・・、そう考えた。
トン、と軽く地面を蹴り、水の檻を飛び出した、が、その時・・・
「うわ!何だこの蝶は!」
そこには光り輝く何百という蝶が舞い狂っていた。
「ビンゴ、なのです!」
舞い踊る蝶は言わずと知れた土門の式神『夜魂蝶』である。土門は、反閇に追われた麒麟が、円形に張った結界の最も弱い部分『鬼門』から出ることを予期していたのである。そしてそこに、大量の夜魂蝶を仕掛けていたのだ。
大量の夜魂蝶に取り囲まれ、背に乗った主が困惑する中、麒麟は意外と冷静だった。冷静に土門の声を聞き取っていた。
我を追う者は極みへと退けよ
車為す者はその車軸が折れよ
馬為す者は目を闇くせよ
歩きたる者は踵を挫け
兵を挙げたる者は悉く伏せ
明星 北斗 此の敵を却せよ
牽星 織星 海となせ川となせ
急ぎ急ぎて律令のごとく・・・」
タン、と最後の一星を踏み、麒麟に向かい素早く九字を切った。
「行為せよ!」
歩法によって地に描かれた九星が光を放ち、周囲に波紋を広げていく。同時に左前が放った水の剣が麒麟とそれに乗ったクチナワを取り囲むように地に刺さった。
「何だ!」
クチナワが声を上げる。一瞬動揺をした様子だが、麒麟自体にダメージがないと分かるとホッとしたのか、ぽんとその腹を蹴って指示を出した。
「麒麟よ、この妙な術を打ち払え!」
麒麟は神獣である。クチナワが使える妖魅の中でも最も位が高いものと言ってもいい。そんじょそこらの術は効かないはずだという自負が彼にはあった。
麒麟は首を挙げ、一声いななくと、周囲を見渡した。地からは反閇の光、周囲には水の檻。どうにもここは居心地が良くない、そう感じていた。最も結界の弱いところを突いて、ここは一旦外に出よう。
それが麒麟の下した結論だった。
甲高い声をもう一声上げ、麒麟が結界内で最も弱い部分に自身の角を突き立てる。土気を有するその角の前に、あっさりと左前の水の剣は軽い音を立て砕け散った。
ーこれで、自由だ・・・
麒麟はそこから結界を出ようとする。ちょうど、反閇を仕掛けている術者とも距離が取れて好都合だ・・・、そう考えた。
トン、と軽く地面を蹴り、水の檻を飛び出した、が、その時・・・
「うわ!何だこの蝶は!」
そこには光り輝く何百という蝶が舞い狂っていた。
「ビンゴ、なのです!」
舞い踊る蝶は言わずと知れた土門の式神『夜魂蝶』である。土門は、反閇に追われた麒麟が、円形に張った結界の最も弱い部分『鬼門』から出ることを予期していたのである。そしてそこに、大量の夜魂蝶を仕掛けていたのだ。
大量の夜魂蝶に取り囲まれ、背に乗った主が困惑する中、麒麟は意外と冷静だった。冷静に土門の声を聞き取っていた。

