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天狐あやかし秘譚
第9章 甜言蜜語(てんげんみつご)
我が家の狭い浴室にいたはずが、煌々と月明かりの射す野外に身をおいていた。しかも、浸かっているのも狭い浴槽ではなく、広々とした露天風呂。山の中腹にあるのだろうか、月影の下には山々の影が黒々として見える。頭上には大きな木の枝が張り出しており、それが時折やわらかい風にそよぎ、葉擦れの音が聞こえた。

後ろを振り向くと、岩が平らに削られており、洗い場のようになっている。いくつか風呂桶や風呂椅子のようなものもある。もちろん、私達以外に人はいない。

まるで、高級旅館の露天風呂を借り切っているかのようだ。

ダリが、私の横にするりと入ってくる。
「ああ・・・なかなかいい湯だな」
そのまま全く自然な流れで私の肩にぐるっと腕を回し、抱き寄せてくる。
ダリが抱き寄せてきてくれるのは、正直嬉しいが、今日のあの意地悪な失笑を思い出してしまい、私はぷいっと横を向く。

そんな簡単に、許さないんだから!

「拗ねておるな、綾音」

そりゃ拗ねるわよ。だって、だって、本当に、ダリがピンチだって思っちゃったんだもん。それで、守らなきゃってがんばっちゃったんだもん。

「だって・・・意地悪するから」
ぶーっと顔をふくらませる。

「そのような顔も好きだぞ・・・それに」
好き、という言葉に不覚にも顔が赤くなる。ギュッと更に自分のみに引き寄せるだりの腕の力が強くなり、そのせいで、私の身体は湯船の中でほとんどダリに抱きすくめられるようになってしまう。

「誰かに守られる、というのは、1000年ぶりのことだ・・・」
どういう意味?とダリの方を向くと、あっという間に唇を奪われてしまう。

唇を閉じたまま、押し付けてくるような優しいキス。
自然と目を閉じてしまう。そうすると、唇にだけ意識が行き、なおさらキスの感覚を強く感じる。

「んあ♡」

肩を抱いていた彼の手が胸に降りてくる。指先が私の乳首を撫で、さすり、軽く摘んできた。甘く痺れるような感じが胸から背筋に走ってくる。
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