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天狐あやかし秘譚
第100章 死中求活(しちゅうきゅうかつ)
大抵ならダリが守ってくれる私であるが、ダリが助けに来られない時などのため・・・例えば、こうして妖魅の結界に閉じ込められた時のための保険、『お守り』として宝生前が用意してくれたものなのである。

私はケースから短めの石釘を一本取り出し、地面に石釘を突き刺すと、宝生前から教えられた呪言を唱えた。

「中央 黄龍 思慮 打ち締めよ!」

本来は、術者と石釘を結ぶ直線、その延長線上にいる『敵』に対して衝撃波を与える術式であるが、底に込められた『土』属性の呪力が、あやかしの水の結界術に干渉し、その効果をかき乱す・・・はず!

ぶううううん!

石釘が細かく震え、大きなエネルギーを持つ衝撃波を前方に放つ。その途端、バリン!と音を立て、正面の森の風景がガラス片のように粉々に砕け散った。

「何だ・・・貴様らは・・・」

結界を破ればそこは現実世界・・・ということをちょっとは期待したが、見た感じそうではない。割れた景色の先もまだあやかしの結界内であるようだった。しかし・・・

「お母さん!!」

私はいつの間にか森が広く円形に開けた不思議な場所にいた。真上には真っ赤な月が昇っている。その広間のほぼ中央に、クマほどの大きさのある真っ黒い獣のようなものがいる。

『ようなもの』と言ったのは、それが明らかに普通の獣ではないことが明らかだからだ。とにかく手足が長い。そして、口が大きく裂けていた。

そして、その足元に、母が気を失ったかのように倒れていた。

「綾音様!あやつがここの『主』です!!」

佐那が言うが早いか、私は石釘をケースからもう一本取り出していた。今度はより強力な術式を使える『長い石釘』だ。まずはあの変なのを母から引き離さなければ!

「こっち来い!妖怪!」

私はわざと妖怪の側を駆け抜けるように走っていく。うまく・・・惹きつけられて!

私の願いがかなったのか、黒い獣の妖怪はこちらに向かって長い手足を器用に動かし駆けてきた。怖い・・・怖いは怖いが、私がなんとかしないと!

ええっと・・・何だっけ!?

私は石釘を貰ったときに宝生前から教わったことを必死に思い出そうとする。

『いいですか?土の術式は皆、たいてい射程が短いです。この長釘の術もそうです』
頭の中、宝生前に教わったことがリフレインする。
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