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天狐あやかし秘譚
第124章 二転三転(にてんさんてん)
っ!?

瞬きするほどの時間で、ダリの右側にスクセが移動し、無表情で八握剣を横薙ぎにする。それはあたかも、唐突にそこに現れたかのように見える・・・それほどの速度で移動していたのだ。

ただ、ダリも負けてはいない。目で追うよりも早く殺気を感じ素早く槍を立て、その剣戟を受け止めてみせた。

一瞬スクセが、その眉間に皺を寄せたように見える。右足が大地につくやいなや、強くそれを踏み込み、彼女は一足飛びにダリの背後に回り込んだ。もう一度、大地を踏み込むと、正確にダリの首の後ろめがけて剣を突き出してくる。

速い・・・っ!

かろうじて身を捻ってその突進を躱すと、今度はダリのほうが右手の槍を大きく横薙ぎにするが、それはあっさりと八握剣で跳ね上げられてしまった。

ダリは百戦錬磨である。対して、八握剣の放つ権能により肉体が強化されているとは言え、スクセは戦闘の経験は殆どない。それがこのような互角の戦いができているのは、ひとえに槍と剣、その間合いの違いによるところが大きい。

本来は槍術のほうが剣よりも圧倒的に有利なのであるが、それは十分な間合いがある場合である。今みたいにその高められた圧倒的膂力を持って、懐に飛び込まれると、天魔反戈を振るうのは容易ではない。

スクセはそれを承知でダリの懐に飛び込んでいるのだ。素早いフットワークを駆使し、ダリが自分の間合いで戦えないように巧妙に仕組んでいる。更に、それを差し引いても奇妙なことがもうひとつあった。

当たらぬな・・・

体術を駆使し、槍を振るっているにも関わらず、そのことごとくがまるで予定調和のように避けられてしまうことに、ダリは若干の戸惑いを覚えていた。

未来を固められている・・・?

このダリの直感は当たっていた。
スクセはここに来るまでに可能な限りの未来を自分の有利な方向に固めてあったのだ。ダリの斬撃の軌道を確定し、それを避ける自らの未来をも固めていた。当然、沖津鏡によって固められた未来は決定事項だ。スクセは何も考えなくてもダリの斬撃に当たる心配がないということになる。

その後も、暗い森の中、ダリとスクセは数十の剣戟を交えたが一向に決着がつくことはなかった。ダリの槍撃も当たることはないが、スクセの切っ先もまたダリを捉えることはなかった。やはりダリの死を確定するには、スクセの力はかなり不足していたのだ。
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