この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
天狐あやかし秘譚
第28章 窮鳥入懐(きゅうちょうにゅうかい)

☆☆☆
宝生前が印を結び、気絶した圭介の額に念を放つ。彼の土の術式により、強制的に昏倒から意識を呼び戻すためだ。
うーん・・・と唸り声をあげ、圭介が目を覚ました。
もちろん、身体の自由を奪うため、両手を後ろに回し、親指同士を麻紐でくくってある。これで、ある程度行動を抑制できるはずだ。
「ここは?」
意識の焦点があってきて、自分の置かれている状況を理解し始めたのか、圭介はあたりを見回し、不審そうに呟く。
「あれがなんだか分かる?」
私が指さしたのは、ざっと30畳はくだらない部屋いっぱいに広がる、土饅頭たちだった。
「な!?」
圭介が色を失う。驚いて当然だろう。部屋の床は抜かれ、下の地面が顕になっている。そこに累々と土饅頭が作られている。屋敷の中に突如現れた、それは、墓地だった。
ここはホシガリ様となった海子の姉が、代々の『婿』を埋葬し続けた場所なのだ。
「あなた達浮内の家の者が『生贄』と思っていた婿たちは、皆ホシガリ様の本当の悲しさに触れて、一生を添い遂げた。彼女もまた、彼らを愛し、そして、きちんと弔ってきた。これはその証よ・・・。圭介さん、あなた達一族がホシガリ様となった彼女にしたこと、ホシガリ様の婿にしてきたこと、これを見ても、まだそれを続けるというの?」
『私』は覚えている。
手から血を流しながら土を掘り返し、『婿』の遺体を抱きしめて、口づけをし涙を流して埋葬したことを。何人も、何人も・・・。気が狂うほどの月日の中で、自分を繋ぎ止めてくれた、優しさを愛おしむように・・・。
「圭介さん、もう、彼女を解放してください。お願いです。あなたが知っている、彼女の名前を、教えてください」
圭介はうつむいていた。肩が少し震えている。
さすがに、この光景を見て、驚かない人はいない、感じるものがない人なんていない、そう思った。
しかし、甘かった。
肩が震えていたのは、泣いていたり、情緒的になっていたせいではなかった。
彼は、笑っていた。
くっくっく・・・くっくっく・・・
最初は小さく、そして、ついには、哄笑に至る。
「言う訳ねえだろ!あんな妖怪がどうなろうと知ったことか!あいつは・・・あいつはバケモンだよ!」
宝生前が印を結び、気絶した圭介の額に念を放つ。彼の土の術式により、強制的に昏倒から意識を呼び戻すためだ。
うーん・・・と唸り声をあげ、圭介が目を覚ました。
もちろん、身体の自由を奪うため、両手を後ろに回し、親指同士を麻紐でくくってある。これで、ある程度行動を抑制できるはずだ。
「ここは?」
意識の焦点があってきて、自分の置かれている状況を理解し始めたのか、圭介はあたりを見回し、不審そうに呟く。
「あれがなんだか分かる?」
私が指さしたのは、ざっと30畳はくだらない部屋いっぱいに広がる、土饅頭たちだった。
「な!?」
圭介が色を失う。驚いて当然だろう。部屋の床は抜かれ、下の地面が顕になっている。そこに累々と土饅頭が作られている。屋敷の中に突如現れた、それは、墓地だった。
ここはホシガリ様となった海子の姉が、代々の『婿』を埋葬し続けた場所なのだ。
「あなた達浮内の家の者が『生贄』と思っていた婿たちは、皆ホシガリ様の本当の悲しさに触れて、一生を添い遂げた。彼女もまた、彼らを愛し、そして、きちんと弔ってきた。これはその証よ・・・。圭介さん、あなた達一族がホシガリ様となった彼女にしたこと、ホシガリ様の婿にしてきたこと、これを見ても、まだそれを続けるというの?」
『私』は覚えている。
手から血を流しながら土を掘り返し、『婿』の遺体を抱きしめて、口づけをし涙を流して埋葬したことを。何人も、何人も・・・。気が狂うほどの月日の中で、自分を繋ぎ止めてくれた、優しさを愛おしむように・・・。
「圭介さん、もう、彼女を解放してください。お願いです。あなたが知っている、彼女の名前を、教えてください」
圭介はうつむいていた。肩が少し震えている。
さすがに、この光景を見て、驚かない人はいない、感じるものがない人なんていない、そう思った。
しかし、甘かった。
肩が震えていたのは、泣いていたり、情緒的になっていたせいではなかった。
彼は、笑っていた。
くっくっく・・・くっくっく・・・
最初は小さく、そして、ついには、哄笑に至る。
「言う訳ねえだろ!あんな妖怪がどうなろうと知ったことか!あいつは・・・あいつはバケモンだよ!」

