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天狐あやかし秘譚
第28章 窮鳥入懐(きゅうちょうにゅうかい)
頭に血が上る、という経験を私は生まれて初めてした。

バシン!

気がついたら、圭介の頬を平手で叩いていた。

「お前・・・!」
体が震える。悔しくて涙も出ない。歯を食いしばり、唇から血が滲みそうになる。

殺して・・・殺してやる!!!

激情に身を任せ、圭介に掴みかかる。その喉を締め上げた。
「ぐえええ・・・いや・・・めろお」

「綾音さん!」
宝生前と草介さんが慌てて止めに入った。どうやら私はものすごい力で圭介の喉を締め上げていたらしく、彼らもまた力を入れて指を外す必要があったようだ。
私の手が外れ、肩で息をしながら座り込んだ頃には、圭介の喉にはくっきりと私の手の跡が残っていたくらいだった。

「綾音さん・・・こいつのことは私に任せてください。・・・ちょっと好みだと思ったけど、間違いでしたね。・・・時間もないですし、別の方法で吐かせるとしましょう」

私と同じく、肩で息をしている圭介は何かをブツブツ言っている。
ん?なんだ?気でも触れたか?

宝生前が目を見開く。
「いけない!綾音さん!伏せ・・・」

言葉を最後まで紡ぐことが出来なかった。突然、私達がいる部屋の側面の壁がぶち抜かれ、ホシガリ様が飛び出してきたからだ。

「綾音!」
ダリも彼女を追いかけて入ってくる。
そうか、あのブツブツ言っていたのは、ホシガリ様を呼んでいたのか。

「こんな遠距離からも命が届くとは・・・」
衝撃で倒れた宝生前が体を起こしながら毒づく。
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