この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
天狐あやかし秘譚
第32章 【第8話 市民の木】一意専心(いちいせんしん)

☆☆☆
『私』の意識がゆっくりと闇から浮かび上がる。周囲の景色がぼんやりと見え始め、音が次第にはっきりと聞こえだす。
ぱちり・・・一回、瞬きをする。
首を回し、両の手を握ったり開いたりする。
身体が・・・少し重い気がする。木霊として浮遊しているわけではなく、『瀬良』という綾音の知己の身体を借りているからだ。以前、綾音の身体を借りたときもこんな感じだった。
あの、樹・・・昨日の夜、見たやつだ。
『私』は歩み寄ろうとする。先程まで人だかりができていたのだが、同じ服を着た男たちがいなくなると、老婆もどこかに消え、それに伴って人だかりもバラバラといなくなった。
人がいなくなり、ちょうどよかった。
「おい!お前・・・」
後ろから声をかけられる。ふらりと振り返ると、これも綾音の知り合いである男・・・確か、土御門とか言ったか?が立っていた。
この男は、強い力を発している。あの狐ほどではないが・・・。何やら怒気をはらんだ表情だ。ビリビリと腹の底に響いてくる。負ける気はしないが、戦いたいわけでもない。
「瀬良を・・・わいの女、どないした?」
その声に、『私』の下腹がずくんと鈍く疼いた気がした。
ああ・・・この男は『瀬良』を心配しているのか。申し訳ないことをした。
「瀬良は、ここにいます」
『私』はお腹のあたりを両手で包む。心配、しないでほしい。
「少しだけ、身体を借りました。すぐにお返しします」
丁寧に説明をしたつもりだったが、土御門は気に入らなかったようだった。『私』に掴みかかってこようとする。
「そういうこと言っとるんやない!勝手なことすな!」
ふわり、と後ろに身体を動かす。その動きが予想外だったのか、土御門がそのままつんのめって転びそうになった。
彼は舌打ちをして、右手で刀印を結ぶ。何か・・・術を発動しようとしている?
『私』は歌った。
『淡雪の若やる木々の生ふ土の』
硬い岩の土の下から若木を生やす。若木はみるみる蔓延り、男の手足を絡め取った。
「な!なんやこれ!!」
刀印を崩し、男が発しようとした術も霧消した。若木は更に這い生い茂り、土御門を包み込み、木の封印に閉じ込める。その木にそっと手を置き、私は謝罪した。
『私』の意識がゆっくりと闇から浮かび上がる。周囲の景色がぼんやりと見え始め、音が次第にはっきりと聞こえだす。
ぱちり・・・一回、瞬きをする。
首を回し、両の手を握ったり開いたりする。
身体が・・・少し重い気がする。木霊として浮遊しているわけではなく、『瀬良』という綾音の知己の身体を借りているからだ。以前、綾音の身体を借りたときもこんな感じだった。
あの、樹・・・昨日の夜、見たやつだ。
『私』は歩み寄ろうとする。先程まで人だかりができていたのだが、同じ服を着た男たちがいなくなると、老婆もどこかに消え、それに伴って人だかりもバラバラといなくなった。
人がいなくなり、ちょうどよかった。
「おい!お前・・・」
後ろから声をかけられる。ふらりと振り返ると、これも綾音の知り合いである男・・・確か、土御門とか言ったか?が立っていた。
この男は、強い力を発している。あの狐ほどではないが・・・。何やら怒気をはらんだ表情だ。ビリビリと腹の底に響いてくる。負ける気はしないが、戦いたいわけでもない。
「瀬良を・・・わいの女、どないした?」
その声に、『私』の下腹がずくんと鈍く疼いた気がした。
ああ・・・この男は『瀬良』を心配しているのか。申し訳ないことをした。
「瀬良は、ここにいます」
『私』はお腹のあたりを両手で包む。心配、しないでほしい。
「少しだけ、身体を借りました。すぐにお返しします」
丁寧に説明をしたつもりだったが、土御門は気に入らなかったようだった。『私』に掴みかかってこようとする。
「そういうこと言っとるんやない!勝手なことすな!」
ふわり、と後ろに身体を動かす。その動きが予想外だったのか、土御門がそのままつんのめって転びそうになった。
彼は舌打ちをして、右手で刀印を結ぶ。何か・・・術を発動しようとしている?
『私』は歌った。
『淡雪の若やる木々の生ふ土の』
硬い岩の土の下から若木を生やす。若木はみるみる蔓延り、男の手足を絡め取った。
「な!なんやこれ!!」
刀印を崩し、男が発しようとした術も霧消した。若木は更に這い生い茂り、土御門を包み込み、木の封印に閉じ込める。その木にそっと手を置き、私は謝罪した。

