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天狐あやかし秘譚
第35章 真実一路(しんじついちろ)

☆☆☆
「これはどういうことだ?」
目の前の出来事がよく飲み込めない。いったい、何が起こっているというのだろう?
綾音が連れてきてくれたのは、環の母が立ち尽くしていたあの辻だった。花が供えられているところに、環がいた。その姿は、死に瀕したときのままであり、ぺたりと力なく座り込んでいた。そして、先ほどまでの生き生きとした様子とは全く異なり、色が薄れ、何となればうしろの景色が透けて視えるほどであった。
「魂が削れ切る寸前だ・・・。お前を救うために、この娘は魂の力を出し切ってしまったのだ」
ダリ殿が言った。拙者を救うために・・・?
「芝三郎がピンチなのを必死に教えてくれたの。この子の叫びがあったから、ダリが間に合ったのよ」
綾音がその言葉を継いだ。
綾音とダリ殿は、拙者が気づくより早くから、環が死霊であることに気づいていたという。そのため、拙者のことを心配し、何となく近くで見張っていたそうだ。そんな中、例の辻での出来事があった。環が叫び声を挙げたことで、ダリ殿が拙者を見つけられ、助けることができた、というのだ。
もし、環が魂をかけて叫んでくれなければ、拙者は環の母に縊り殺されていたかもしれなかったのだ。
しかし、その代わりに環は魂の力の大半を失ったという。
「それでは・・・環は・・・」
「このままでは間もなく冤鬼(えんき)になる。・・・その前に常世に送らなければならない。この状態では、長くても、今夜の月が昇りきるまでも保つまい」
そんな・・・。
環は何も母君に伝えられていない。
母君も環に別れを言えていない。
「今、瀬良さんに連絡している・・・。そのうち、ここに陰陽寮の人が来るわ・・・。そうしたら、環ちゃんを、みんなで常世に見送ってあげよう」
綾音がそっと拙者の頭を撫でる。
そんな・・・そんな・・・。
拙者のせいではないか。環の最後の望みだったのに。
『くりすます』までに『ぷれぜんと』を渡すのが・・・!
今夜・・・月が昇るまで・・・
「綾音殿・・・ダリ殿・・・」
拙者は環の横で、二人に向けて手をついた。
「淡路の国、三熊の芝三郎狸・・・この名にかけて、折り入ってお二人に頼みがござる。何卒・・・」
「これはどういうことだ?」
目の前の出来事がよく飲み込めない。いったい、何が起こっているというのだろう?
綾音が連れてきてくれたのは、環の母が立ち尽くしていたあの辻だった。花が供えられているところに、環がいた。その姿は、死に瀕したときのままであり、ぺたりと力なく座り込んでいた。そして、先ほどまでの生き生きとした様子とは全く異なり、色が薄れ、何となればうしろの景色が透けて視えるほどであった。
「魂が削れ切る寸前だ・・・。お前を救うために、この娘は魂の力を出し切ってしまったのだ」
ダリ殿が言った。拙者を救うために・・・?
「芝三郎がピンチなのを必死に教えてくれたの。この子の叫びがあったから、ダリが間に合ったのよ」
綾音がその言葉を継いだ。
綾音とダリ殿は、拙者が気づくより早くから、環が死霊であることに気づいていたという。そのため、拙者のことを心配し、何となく近くで見張っていたそうだ。そんな中、例の辻での出来事があった。環が叫び声を挙げたことで、ダリ殿が拙者を見つけられ、助けることができた、というのだ。
もし、環が魂をかけて叫んでくれなければ、拙者は環の母に縊り殺されていたかもしれなかったのだ。
しかし、その代わりに環は魂の力の大半を失ったという。
「それでは・・・環は・・・」
「このままでは間もなく冤鬼(えんき)になる。・・・その前に常世に送らなければならない。この状態では、長くても、今夜の月が昇りきるまでも保つまい」
そんな・・・。
環は何も母君に伝えられていない。
母君も環に別れを言えていない。
「今、瀬良さんに連絡している・・・。そのうち、ここに陰陽寮の人が来るわ・・・。そうしたら、環ちゃんを、みんなで常世に見送ってあげよう」
綾音がそっと拙者の頭を撫でる。
そんな・・・そんな・・・。
拙者のせいではないか。環の最後の望みだったのに。
『くりすます』までに『ぷれぜんと』を渡すのが・・・!
今夜・・・月が昇るまで・・・
「綾音殿・・・ダリ殿・・・」
拙者は環の横で、二人に向けて手をついた。
「淡路の国、三熊の芝三郎狸・・・この名にかけて、折り入ってお二人に頼みがござる。何卒・・・」

