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天狐あやかし秘譚
第39章 有備無患(ゆうびむかん)
☆☆☆
窓から仰ぐ空に、上弦の月が輝いている。
視線を下に移すと、中類村ののどかな風景が、月の青に染まっているのが見えた。

暗い部屋の中、真白はひとり、ぼんやりと外を眺めていた。村人たちや使用人から『雪のような』と形容された抜けるように白い肌、黒曜石のような澄んだ瞳、整った鼻筋と口元。そんな美しい女性だったが、その目は憂いを帯び、空に浮かぶ月明かりを映していた。
昨日より今日、空の月は満ちていく。それは彼女に容赦ない時間の経過を知らせる。そして、時間の経過はそのまま、彼女にとっての破滅への道程となるのだ。

「兄様・・・」

彼女はひとつ呟く。それは、届く宛のない言葉、届く必要すらない言葉だった。そんな彼女が見上げる空で、キリリと月がまた軋んだ。
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