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天狐あやかし秘譚
第57章 自縄自縛(じじょうじばく)
「おそらく、そういった鬼道に触れてもうたんやろな。嘘に嘘を重ねてがんじがらめになって、どないしようもなくなったところに、最後の大事な友人を無くしそうな恐怖が重なって・・・鬼道に魅入られてもうたんやろな・・・。そいで鬼になって、わけわからんようになって、離れたくないって思いが・・・」
「彼女を喰ってひとつになる、という思いになった」
「せやな、鬼の本能っていうのもあったかもしれないけどな。危うく、一番大切な友人を殺してまうところやった。」
「彼女・・・助かり・・・ますか?」
「ああ、助かる、それは保証する。それに、そこまでの心情理解が出来てるならなおさらや。儀式が一通り終わったらカウンセラーも手配しようか。・・・まあ、方法はさておき、結果から言えば、瀬良ちゃんがいたことでこの子ら助かったんや。お手柄っちゃお手柄やで」

土御門様は褒めてくれたけど、そんなに役に立った気は、やっぱりしなかった。
ほなな、と土御門様が病室を後にしようとする。

「土御門様」
思わず引き止めてしまった。
「ん?なんや?」
引き止めてしまってから、なんと言おうかと考えている自分がいた。
「あ・・・の・・・早く治して、復帰、しますから!」

しまった。さっき、ゆっくり休めと言われたばかりなのに・・・。
機転が利かない自分が心底恨めしかった。

土御門様はふっと笑うと、出口の方に向き直り、そのまま軽く手を振りながら言った。
「ああ、早よしてや。瀬良ちゃんいないと、わい、仕事できへんもん。部屋はグッチャグチャ、スケジュールわやくちゃ。それに・・・」
振り返って、この上なくいやらしい笑みを浮かべる。
「おちんぽ、寂しゅうてしゃあないわ」

待ってんで、そう言って病院の無機質な引き戸の向こうに消えていった。
その姿が見えなくなって、しばらくしてから、
「バカ・・・」
と小声で呟くと、私はコロンと出口と反対方向、窓の方を向いた。

涙が、頬を伝って落ちていった。
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