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天狐あやかし秘譚
第59章 合縁奇縁(あいえんきえん)
この石なんだろう・・・?
まあいい。ここには『本体』がいる様子はない。

私は再び『目』を上空に引き上げ俯瞰した。

ああ・・・あそこか・・・
屋敷の方に意識を向けると、その中になにか複数の『気配』のようなものを感じた。異界の境界線に蠢く『辻神』のほかに感じた、初めての『動くもの』の気配だ。この屋敷の中に本体がいる可能性が高い。

私は『目』を地上に下ろす。まずは屋敷の玄関。引き戸をすり抜けて中に入っていく。中は土間だ。暗く沈んでおり、直接は感じないが、ひんやりとした雰囲気がある。右手にはかまどがあり、その奥には洗い場などがある。左手は板の間だが、ここにも特に何も無い。

『目』が板の間に進む。正面と左右に障子があるのが分かった。左手の障子の向こうを覗くと縁側があり、右手の障子の向こうは小さめの和室だった。ここには布団が数組積まれているので、客間のようなところかもしれない。ここにも、なにものの気配も感じ取れなかった。

次は正面だ・・・。

私は『目』を進ませ、板の間から見て正面の部屋に入り込もうとする。通常の日本家屋の作りからしたら、おそらくこの向こうも和室であると思うのだが・・・。

っ!

そこは確かに和室だった。先程の板の間と右手の和室を合わせたくらいの広さで、かなり広い。十畳ほどはあるだろうか。そして、何より驚いたのは、そこに両手をバンザイしたような状態で吊り上げられた女性たちが複数人いたことだった。女性たちは、一応座らされてはいるが、疲れ切ったようにぐったりと顔を伏せている。それぞれが触れ合わないように、絶妙に距離を置いて吊り下げられていた。

これは・・・攫われた人・・・なのです。
全員、女性?しかも・・・服を着ていない。

外傷こそないようにみえるが、全裸で拘束されている事からも、何が起こったのか想像がつくというものである。私はそこで起きたであろう惨劇を思い、軽く唇を噛む。

もっとよく見ようと、目を更に奥に進ませようとした時、一人の女性の影から、のそりとひときわ大きい人影が現れた。その人影の目に当たるところは黒く穿たれ、赤い泪を流していた。そして、目がないはずなのに、こっちを『見た』と感じる。

気づかれた!?

瞬間、バチンと弾かれるような衝撃が走り、私の『目』が潰されてしまった。

術式を破られましたか・・・。
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