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天狐あやかし秘譚
第60章 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)

今度は懐から小さな木札を取り出す。神社でいただける御守をイメージしてくれればいいと思う。それくらいの大きさの札だ。その札に軽くキスをして傍らに置く。
短い呪言と簡易な呪具で作る囮を作ろうというわけだ。
私の目からは単なる「木の札」にしか見えないが、あやかし連中にはこれが私がうずくまっている姿に見えることだろう。
その札を置いて私はそっとその場を離れる。少し離れて振り返ると、『辻神』が『私』を捕らえようと手を伸ばしている様子が見て取れた。
やっぱり殺そうとかではなく、捕らえようとしている・・・のですね。
ふと気配を探ると、いつの間にやら周囲にあやかしの気配が満ちていた。どうやら夜魂蝶の光や木札による囮のせいか、周囲に『辻神』が多く集まってきてしまったようだった。
一旦、離れなければ・・・。
私は注意を払いつつ、姿勢を低くして足早にそこを離れた。かといって何処を目指せばいいかというのもない。歩きながら時折、木札を取り出し、囮の『私』を設置したり、夜魂蝶を勧請して漂わせ、『辻神』たちをできるだけ広範囲に散らばらせるくらいしかできることはない。
本体はおそらくあの屋敷にいたヤツ、なのでしょうが・・・。
遠目に見ても、屋敷の周りの『辻神』たちの密度は半端ではなかった。あの包囲網をくぐり抜けることはちょっと難しそうだ。私という外敵を認知したせいか、屋敷の防衛を固めにかかっているようだ。
私はあばら家の一軒の板壁の隙間から木札を滑り込ませる。こうしておけば、家の中に隠れているように見えるだろう。
こうして逃げ続けて一体どのくらい経っただろうか。
異界内の『辻神』の数は増えこそしていないが、減ることもない。一度、これだけ村の中に『辻神』たちが溢れているのだから、境界線上のそれは減っているのではないか、と期待して、そこまで行ってみたのだが、そんなことはなかった。境界線上の『辻神』も相変わらずの密度で存在していたのである。
何がどうあっても、ここから出さないつもり・・・なんですね。
とにかく、今できることはこうして逃げ続けて、助けが来るのを待つしかないですよね。
本当に、頼りにしてますよ・・・宝生前さん・・・。
短い呪言と簡易な呪具で作る囮を作ろうというわけだ。
私の目からは単なる「木の札」にしか見えないが、あやかし連中にはこれが私がうずくまっている姿に見えることだろう。
その札を置いて私はそっとその場を離れる。少し離れて振り返ると、『辻神』が『私』を捕らえようと手を伸ばしている様子が見て取れた。
やっぱり殺そうとかではなく、捕らえようとしている・・・のですね。
ふと気配を探ると、いつの間にやら周囲にあやかしの気配が満ちていた。どうやら夜魂蝶の光や木札による囮のせいか、周囲に『辻神』が多く集まってきてしまったようだった。
一旦、離れなければ・・・。
私は注意を払いつつ、姿勢を低くして足早にそこを離れた。かといって何処を目指せばいいかというのもない。歩きながら時折、木札を取り出し、囮の『私』を設置したり、夜魂蝶を勧請して漂わせ、『辻神』たちをできるだけ広範囲に散らばらせるくらいしかできることはない。
本体はおそらくあの屋敷にいたヤツ、なのでしょうが・・・。
遠目に見ても、屋敷の周りの『辻神』たちの密度は半端ではなかった。あの包囲網をくぐり抜けることはちょっと難しそうだ。私という外敵を認知したせいか、屋敷の防衛を固めにかかっているようだ。
私はあばら家の一軒の板壁の隙間から木札を滑り込ませる。こうしておけば、家の中に隠れているように見えるだろう。
こうして逃げ続けて一体どのくらい経っただろうか。
異界内の『辻神』の数は増えこそしていないが、減ることもない。一度、これだけ村の中に『辻神』たちが溢れているのだから、境界線上のそれは減っているのではないか、と期待して、そこまで行ってみたのだが、そんなことはなかった。境界線上の『辻神』も相変わらずの密度で存在していたのである。
何がどうあっても、ここから出さないつもり・・・なんですね。
とにかく、今できることはこうして逃げ続けて、助けが来るのを待つしかないですよね。
本当に、頼りにしてますよ・・・宝生前さん・・・。

