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天狐あやかし秘譚
第60章 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)
☆☆☆
両方の肩が痛い・・・

それが目覚めてすぐに思ったことだった。

両の腕を縛り上げられ、天井から吊るされているような姿勢だ。足は畳んだ状態で床についているので、腕に全体重が乗っているということではないが、ずっと腕を上に縛り上げられている姿勢を取らされていたせいか、やっぱり肩は痛かった。
『目』で見たときはあまり気にしていなかったが、縛り上げているのは紐や鎖ではなく、どうやら着物の帯のようなものらしいとわかった。

目を開けると、暗い和室だ。
まあ、思ったとおりだった。

例の『辻神』に捕まり、気を失った私は屋敷に連れ込まれ他の女性たちと同じように和室に拘束されている、というわけだ。目を凝らすと、室内には8人の女性が私と同じように吊し上げられていた。

一点違ったのは、他の女性が全裸であるが、私はまだ服を着たまま、というところだった。触って確かめられないまでも、体に注意を払ってみる。なにかされた形跡は・・・多分ない。

これから・・・ということか?

「んあ♡・・・ぐぅ・・いやぁあ・・・」
最初は気づかなかったが、私から一番離れたところにいる女性の身体を縛り上げている帯がゆらゆらと揺れている。聴覚に意識を集中すると水音のようなものも聞こえる。声と相まって、あの女性が何をされているかは明白である。

許せない・・・のです。

私は恋愛や性に関しては割と寛容な方だと自認している。好きならパートナーがいようが同性だろうが、交わちゃって良いとすら思っている。ただ、そんな私でも、唯一許せないことがあった。

レイプだ。

男女問わず、力の差があったり、拘束されている状態での強引な性的搾取・・・それだけはどうにも許容できなかった。

「ねえ、そこのあなた・・・こっちに手つかずの乙女がいるんですけどねぇ」

めったに逆上しない私だが、このときばかりは別だった。眼の前で犯されている女性を見殺しになんかできない。

なので、こうして声をかけてしまう。
声をかけたところで、自分にどうすることができなくても、である。
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