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天狐あやかし秘譚
第60章 雲蒸竜変(うんじょうりょうへん)
ごそりと、影が蠢く。同時に「あっ・・・」と言ったきり、女の声が止んだ。どうやら影がこちらの声に気づき、行為をやめたらしいとわかる。
ゆらりと立ち上がった影は、先ほどまで飽きるほど見た『辻神』と背格好こそ一緒だったが、いくつか違うところがあった。まずは目だ。目が黒く落ちくぼみ、そこからだらりと血のような赤い泪を流している。そして、ニヤリと三日月に裂けるように笑った口の中も気味の悪い赤色をしていた。

やっぱりこいつが本体・・・。
そして、あとは分身ですね。

ふらふらとこちらに歩いてくるソレは、コートのような服を着ているが、その下は何も身につけていない。近づくにつれて、ダラダラと淫らな液を垂れ流し、凶暴にそそり立つペニスが丸見えなのがわかる。

露出狂かい!

強姦魔の上、露出狂、ついでに待ち伏せ、誘拐、監禁・・・ストーカーも追加・・・
罪状半端ないですね。

私の頭の中で勝手に繰り広げられた裁判による判決は、『執行猶予なしの懲役100年』だった。

影の体格は良く、おそらく2メートル近くはあるだろうか。ゆらーりゆらりと大きな体を揺らしながらゆっくりとこちらに歩いてきた。

もう少し・・・もう少し・・・

そいつが近寄るのをじっくりと待つ。釣り上げられた右手の木環に呪力を少しずつ流し込んでいく。ちょうど木環がある辺りを帯がくるむようにして吊り下げているので、呪力がこもった状態をこいつに見られずに済むのが幸いだ。

さあ・・・近づいてこい・・・くるのです・・・

それがあと2メートルほどに近づいた時、私は右の指を刀印の形に結ぶ。刀印を結んだ指先に紫電がぱちりとまとわりつくように走る。

もっと・・・もっと・・・

影がゆっくりと私の首元に手を伸ばしてきた。生暖かい吐息を感じるほど近くに顔が寄せられる。その目はいやらしく歪み、愉悦に口元が緩んでいる。

私の指先に呪力が収束する。

さあ・・・特大の雷鎚を・・・落として差し上げます!

ソレの顔が私の間近10センチまで迫った時、私は顔を上げて、にやりと笑う。

『木気 召雷電鎚!』

指先に溜めた呪力を雷として頭上から一息に振り下ろす技!

バシン!

まばゆい光とともに、ソレの頭上に白色の雷が落ちる。
「がああっ!!」
影がたまらずたたらを踏み、何歩か後ずさった。
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