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天狐あやかし秘譚
第64章 竜虎相搏(りゅうこそうはく)

狐神モードのダリは山道をそれこそ疾風のように駆け抜ける。そして、どういう鍛え方をしているのかわからないが、九条も負けずについてきている。九条の属している『祭部』というと宝生前さんが真っ先に思い浮かぶが、彼はここまでの身体能力は有していないと思われるので、やはり本人や日暮が言うように、彼は『何でもできる』特別な陰陽師、というのはあながち嘘ではない、ということだろう。
「それ楽そうでいいですね!」
結構な勢いで走っているはずだが、汗ひとつかかず爽やかな顔で九条は言う。その言葉には全く邪気はないが、一切汗をかいていない私としては、誠に申し訳ない気持ちでいっぱいである。
こんな感じで10分ほど山道を駆け上がっただろうか、九条が『そろそろです』と言ったので、私達は一旦立ち止まる。九条が素早く辺りに目を配っている。どうやら式神の気配を探っているようだった。ダリも狐耳をピンと立て、油断なく身構えていた。
時刻は昼下がりをとうに過ぎ、日は大分傾いてきている。周囲は静かな山道だ。両方を林で囲まれ、清涼な空気が満ちている。きっと良いお天気のときにくればハイキングにもってこいだろう。不意に九条が『あっちです』と、歩き出した。その彼を先導にして、私、ダリと続く。
「ミスリン・・・敵の東側に到着しました。そちらも着いてますね?」
多分本来は声に出す必要はないのだろうけど、私に聞かせるために言葉にしてくれているようだ。どうやら、この山道の先に敵がおり、敵を挟んで反対側にはすでに日暮と御九里も到着している状態のようだった。
「敵は廃寺から出て、この先の少し広くなったところにいます。今までは山頂に向けて登っていたようですが、休憩をしているのか、立ち止まっている様子です。そして、何やら話をしています。『山を超えていくか』とか『空を・・・』などと言っているのが聞こえます。
まさか空から逃げる・・・つもりでしょうか?」
九条は馬鹿なことを、みたいな口調で言っているが、私にはひとつ心当たりがあった。
「いや、あり得るよ・・・だって・・・」
そうだ、疱瘡神との戦いのとき、あのシラクモとかいう神宝使いは虫を大量に呼び寄せて空を飛んでみせたのだ。今回も相手は神宝使いだ。未知の方法で空から逃亡する、というのもあり得ない話ではない。
だとしたらまずい。
「それ楽そうでいいですね!」
結構な勢いで走っているはずだが、汗ひとつかかず爽やかな顔で九条は言う。その言葉には全く邪気はないが、一切汗をかいていない私としては、誠に申し訳ない気持ちでいっぱいである。
こんな感じで10分ほど山道を駆け上がっただろうか、九条が『そろそろです』と言ったので、私達は一旦立ち止まる。九条が素早く辺りに目を配っている。どうやら式神の気配を探っているようだった。ダリも狐耳をピンと立て、油断なく身構えていた。
時刻は昼下がりをとうに過ぎ、日は大分傾いてきている。周囲は静かな山道だ。両方を林で囲まれ、清涼な空気が満ちている。きっと良いお天気のときにくればハイキングにもってこいだろう。不意に九条が『あっちです』と、歩き出した。その彼を先導にして、私、ダリと続く。
「ミスリン・・・敵の東側に到着しました。そちらも着いてますね?」
多分本来は声に出す必要はないのだろうけど、私に聞かせるために言葉にしてくれているようだ。どうやら、この山道の先に敵がおり、敵を挟んで反対側にはすでに日暮と御九里も到着している状態のようだった。
「敵は廃寺から出て、この先の少し広くなったところにいます。今までは山頂に向けて登っていたようですが、休憩をしているのか、立ち止まっている様子です。そして、何やら話をしています。『山を超えていくか』とか『空を・・・』などと言っているのが聞こえます。
まさか空から逃げる・・・つもりでしょうか?」
九条は馬鹿なことを、みたいな口調で言っているが、私にはひとつ心当たりがあった。
「いや、あり得るよ・・・だって・・・」
そうだ、疱瘡神との戦いのとき、あのシラクモとかいう神宝使いは虫を大量に呼び寄せて空を飛んでみせたのだ。今回も相手は神宝使いだ。未知の方法で空から逃亡する、というのもあり得ない話ではない。
だとしたらまずい。

