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過去を塗りかえて
第5章 黒い真相
2023年11月8日 AM10:00
「やっぱり、悪いヤツ・・・」
聞き覚えのある声に絵美はドアの前で立ちすくんだ。
父が社長を務める会社の専務室、夫の宏の部屋だった。
意を決して来社したのだが、絵美はノックを躊躇っていた。
連絡が途絶える夫は携帯も出ないことが多い。
娘の幼稚園の入園手続きでどうしても父親の確認が必要で出向いたのだが、会社に来ることを宏は極端に嫌っていた。
義父である絵美の父親に対する負い目もあり、妻と会社で顔を合わすことに抵抗があったのだ。
そう。
宏は絵美の婿養子として逆玉結婚をしたのだ。
大学二年生の時。
絵美を妊娠させたことで父親は激怒した。
直ぐに堕胎を命じたが、絵美はそれを拒んだ。
家を飛び出してでも産むという娘の決意に父は折れた。
いかにも軽薄そうな宏に疑惑の念を抱きながらも学生結婚を許し、自分の会社に迎い入れた。
若くして役員になった宏は凡庸な才能そのままに怠惰な会社生活を送り、義父を失望させた。
比較的、大きな老舗の会社だったが宏が重役になってから徐々に業績を下げ始めた。
絵美の父親も心労がたたり、病気がちになり会社を休む日も多くなった。
お目付け役が不在になり、増長した宏は仕事もそっちのけで外泊を重ねるようになる。
幼い唯奈を放置する義理の息子に絵美の父の病気も益々、重くなるのだった。
そんな時。
専務室を訪れた絵美の耳に聞き覚えのある声が聞こえたのだ。
「お前こそ・・・」
夫の楽しそうな声も聞こえる。
自分との会話では決して出さない口調だった。
絵美と結婚してからも、ずっと。
「全然、息子の面倒をみてないし・・・」
「あんたに言われたくは無いしぃ・・・」
二人は同時に笑い出した。
「まったく、俺達、どうしようもないよなぁ・・・?」
宏の声が曇ったように聞こえるのは気のせいだろうか。
「あぁ・・んん・・・」
女の声が微かに震えている。
絵美はドアを少し開いてみた。
夫と女が重なるように抱き合っているのが見えた。
(あ、あの人は・・・?)
女の顔を見て、絵美は息を飲んだ。
若槻沙也加。
絵美の初恋の人、優太の妻であった。
「やっぱり、悪いヤツ・・・」
聞き覚えのある声に絵美はドアの前で立ちすくんだ。
父が社長を務める会社の専務室、夫の宏の部屋だった。
意を決して来社したのだが、絵美はノックを躊躇っていた。
連絡が途絶える夫は携帯も出ないことが多い。
娘の幼稚園の入園手続きでどうしても父親の確認が必要で出向いたのだが、会社に来ることを宏は極端に嫌っていた。
義父である絵美の父親に対する負い目もあり、妻と会社で顔を合わすことに抵抗があったのだ。
そう。
宏は絵美の婿養子として逆玉結婚をしたのだ。
大学二年生の時。
絵美を妊娠させたことで父親は激怒した。
直ぐに堕胎を命じたが、絵美はそれを拒んだ。
家を飛び出してでも産むという娘の決意に父は折れた。
いかにも軽薄そうな宏に疑惑の念を抱きながらも学生結婚を許し、自分の会社に迎い入れた。
若くして役員になった宏は凡庸な才能そのままに怠惰な会社生活を送り、義父を失望させた。
比較的、大きな老舗の会社だったが宏が重役になってから徐々に業績を下げ始めた。
絵美の父親も心労がたたり、病気がちになり会社を休む日も多くなった。
お目付け役が不在になり、増長した宏は仕事もそっちのけで外泊を重ねるようになる。
幼い唯奈を放置する義理の息子に絵美の父の病気も益々、重くなるのだった。
そんな時。
専務室を訪れた絵美の耳に聞き覚えのある声が聞こえたのだ。
「お前こそ・・・」
夫の楽しそうな声も聞こえる。
自分との会話では決して出さない口調だった。
絵美と結婚してからも、ずっと。
「全然、息子の面倒をみてないし・・・」
「あんたに言われたくは無いしぃ・・・」
二人は同時に笑い出した。
「まったく、俺達、どうしようもないよなぁ・・・?」
宏の声が曇ったように聞こえるのは気のせいだろうか。
「あぁ・・んん・・・」
女の声が微かに震えている。
絵美はドアを少し開いてみた。
夫と女が重なるように抱き合っているのが見えた。
(あ、あの人は・・・?)
女の顔を見て、絵美は息を飲んだ。
若槻沙也加。
絵美の初恋の人、優太の妻であった。